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国境まで尾張方の迎えが来るとは帰蝶も聞いていたが、彼らではないだろう。稲葉は尾張の罠だと言ったが、どう見ても尾張側には見えない。
では、彼らは何者か。
既にこちらが美濃・斎藤家だと知っていて、この日が婚礼だと知り得る者。
それは誰か。
「姫をお守りせよ!」
斬り合いに発展した両者だが、帰蝶に随行している共の多くは実戦の経験が皆無に等しく、合戦の経験がある稲葉良通、安藤守就、氏家直元だけでは限界があった。
「帰蝶さま、お逃げください!」
「楓!」
帰蝶を護るように、楓が盾となった。
楓もまた、哀れな女である。
忍びの家に生まれ、女であっても主君の盾となって戦うことを義務付けられた。それでも楓は、それが私の使命と言い切る。
しかし帰蝶は逃げろと言われて、逃げる女ではなかった。
ついに、あの懐剣を抜いたのである。
――万が一のときは……。
そういって道三に渡された、黒漆に蝶の金蒔絵が施された懐剣。
「やむを得ん……」
帰蝶が応じないとわかったか、雑兵を率いていた男が顎をしゃくる。
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