第九話 帰蝶の危機! 決死の木曽川越え

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 国境(くにざかい)まで尾張方の迎えが来るとは帰蝶も聞いていたが、彼らではないだろう。稲葉は尾張の罠だと言ったが、どう見ても尾張側には見えない。  では、彼らは何者か。  既にこちらが美濃・斎藤家だと知っていて、この日が婚礼だと知り得る者。  それは誰か。 「姫をお守りせよ!」  斬り合いに発展した両者だが、帰蝶に随行している共の多くは実戦の経験が皆無に等しく、合戦の経験がある稲葉良通、安藤守就(あんどうもりなり)氏家直元(うじいえもとなお)だけでは限界があった。 「帰蝶さま、お逃げください!」 「楓!」  帰蝶を護るように、楓が盾となった。  楓もまた、哀れな女である。  忍びの家に生まれ、女であっても主君の盾となって戦うことを義務付けられた。それでも楓は、それが私の使命と言い切る。  しかし帰蝶は逃げろと言われて、逃げる女ではなかった。  ついに、あの懐剣を抜いたのである。  ――万が一のときは……。  そういって道三に渡された、黒漆に蝶の金蒔絵が施された懐剣。 「やむを得ん……」  帰蝶が応じないとわかったか、雑兵を率いていた男が(あご)をしゃくる。
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