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「帰蝶さまに触れはさせぬ!」
「楓!」
楓の短刀が雑兵の一人を切り裂く。
だが、雑兵の数は減らない。
今から稲葉山城に報せに走ったとしても、間に合わないだろう。
もし自分が死ねば、父はどうするだろう。
帰蝶は、冷静だった。
賊に従うつもりはなく、戦うことを決めた帰蝶はふと、父・道三がどう思うか考えた。
帰蝶は幼い時からおてんば娘であった。木登りをしては侍女を困らせ、道三といえば「さすがわしの娘よ」と笑っていた。
やはり、今回も笑うのだろうか。
「帰蝶さま!!」
楓の悲痛な叫びに我にかえれば、まさに男の刀が振り下ろされる瞬間だった。
◆
美濃・稲葉山城――。
帰蝶が稲葉山城を出て行ってから一刻、道三は天守から尾張の方角を見ていた。
娘・帰蝶のことを想っているのか、それとも和睦の成功か、はたまた次なる合戦への構想か、その心の中は誰にもわからない。
道三を離れたところから見つめながら、斎藤義龍は眉を寄せた。
そんな義龍の背後に、男が片膝をついた。
「義龍さま」
「どうであった?」
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