第九話 帰蝶の危機! 決死の木曽川越え

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「帰蝶さまに触れはさせぬ!」 「楓!」  楓の短刀が雑兵の一人を切り裂く。  だが、雑兵の数は減らない。  今から稲葉山城に報せに走ったとしても、間に合わないだろう。  もし自分が死ねば、父はどうするだろう。  帰蝶は、冷静だった。  賊に従うつもりはなく、戦うことを決めた帰蝶はふと、父・道三がどう思うか考えた。  帰蝶は幼い時からおてんば娘であった。木登りをしては侍女を困らせ、道三といえば「さすがわしの娘よ」と笑っていた。  やはり、今回も笑うのだろうか。 「帰蝶さま!!」  楓の悲痛な叫びに我にかえれば、まさに男の刀が振り下ろされる瞬間だった。 ◆  美濃・稲葉山城――。  帰蝶が稲葉山城を出て行ってから一刻(いつこく)、道三は天守から尾張の方角を見ていた。  娘・帰蝶のことを想っているのか、それとも和睦の成功か、はたまた次なる合戦への構想か、その心の中は誰にもわからない。  道三を離れたところから見つめながら、斎藤義龍(さいとうよしたつ)は眉を寄せた。  そんな義龍の背後に、男が片膝をついた。 「義龍さま」 「どうであった?」
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