第九話 帰蝶の危機! 決死の木曽川越え

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土岐(とき)さまのご家来衆は、動かれなかったようにございます」 「父上を恐れてのことだろう」  元美濃守護・土岐頼芸(ときよりのり)は、道三に追放されて今は近江国(おうみのくに)にいる。  その頼芸にむけ、義龍は密書を送った。  妹・帰蝶がこの日、尾張に嫁ぐため木曽川を越える――と。  ただそれだけだが、義龍は頼芸が美濃に戻ることを諦めていないと考えた。ならば、帰蝶を捕らえて人質とし、道三に対して挑んでくるだろうと。  だがさすが元とはいえ守護大名、手を汚すのは足がつかぬ者たちに任せたようだ。 「ですが――」  国境まで様子を見に行っていた男は不安げだ。 「土岐さまに書状を送ったことが父上に知られないかと? ふん、父上はまさかこの私が土岐さまをたきつけたなど思うまい。帰蝶には、悪いことをしたとは思うが」  土岐頼芸の背を押したのは、義龍である。  身内を策に利用するのは、この世では珍しくはない。故に妹である帰蝶を、義龍も利用した。  そもそも義龍は、今回の尾張との和睦は反対であった。  この際、敵は一つでも多く減らしておくべきだ。義龍はそう思っている。
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