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元美濃守護・土岐頼芸をたきつけたのは彼の守護復帰を思ってのことではなく、この際に守護復帰を諦めぬ頼芸も討たれれば幸いと思ってのことだ。
――私は私なりに、この美濃のことを思っているのです。父上。
義龍は、道三を見据えた。
彼の視線は、まだ尾張の方角に向けられたままだ。
なのに、義龍に向けられる道三の目は厳しく、口調も冷たい。
今回の画策にあたり、証拠は一切消した。道三に露見することはないだろう。
――認めさせてやる……! この義龍があなたの後を継ぐに相応しい男だということを!
義龍は道三に背を向け、その場をあとにした。
◆◆◆
木曽川国境では、乱闘が続く。
帰蝶に振り下ろされようとしていた刀は、ピタリと真上で止まった。
男は信じられぬといった顔で「うっ」と呻き、そのまま倒れた。背には矢が刺さっている。帰蝶は矢が放たれた方向へと視線を運び、目を見開いた。
そこには、騎乗の四人の男がいた。
矢を放ったのは、中心にいた男で帰蝶が変わらなそうな若い男で、緋と鬱金色の小袖を片肌脱ぎにしていた。
「な、何者だ!?」
稲葉たちが身構える。
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