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「人様の土地で、賊が悪さをしていると聞いたんでな」
帰蝶たちを襲ってきた雑兵は、ほとんど彼らに倒されていた。
動揺する者が多い中、帰蝶は違う意味で動揺していた。
実は彼女が木曽川にきたのは、これが初めてではない。
帰蝶は今回の輿入れの際、どうしても相手のことを知っておきたくなった。二度の婚姻のときは幼かったこともあり道三の言うがままに従ったが、今回夫となる織田信長という男はうつけだという。とてもうまくいくとは思えなかったが、否と言える立場ではない。 帰蝶は尾張まで見に行くと、楓に言った。当然反対されたが帰蝶の決心は変わらず、男装して木曽川に来たのだ。
その時出会ったのが、その風変わりな男であった。
ただそのときは帰蝶としてではなく、楓としてだったが。
「おのれ……、邪魔だて致すとは……」
雑兵たちは、歯軋りをしている。
「文句があるなら、いつでも那古野城に来るといい。織田軍を相手にする勇気があるならな」
「お、織田――!?」
「俺は那古野城主・織田三郎信長だ」
その名乗りに、雑兵たちはもちろん美濃方にも動揺が広がった。
「乗れ。帰蝶!」
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