第十話 宿敵! 今川義元

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 面白そうに口の端を吊り上げた異母兄に、信長が胡乱(うろん)に顔を(しか)める。 「隠すなって。蝮の姫と婚礼をあげたからには、その夜にすることといえば一つしかないだろ? なぁ? 恒興」  まさか話を振られるとは思っていなかった恒興は、ビクッと肩を踊られて視線を泳がせた。もちろん知らないわけではないが、当の本人をして言えるわけがない。 「えっ……、えーと……」  案の定、目を据わらせた信長の視線とぶつかり、恒興はかかなくてもいい汗をかく羽目になった。 「ま、頑張れや」  信広はそう言って立ち上がった。 「異母兄上(あにうえ)、援軍要請の折にはこの信長、いつでも駆けつけまする」 「ああ」  信長の言葉に信広はいつもと変わらぬ笑みを残し、那古野城広間を去っていった。 「信広さまは、大丈夫でございましょうか?」  信広が去るのを見届け、恒興は信長を振り返った。 「父上とともに戦場を駆けた異母兄上のことだ。心配いらんさ」  信長は膳から銚子(ちようし)を取り上げ、(さかずき)に酒を注いだ。 「ですが、相手は大殿も苦戦される今川義元。この時期に動いたのが気になります」
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