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面白そうに口の端を吊り上げた異母兄に、信長が胡乱に顔を顰める。
「隠すなって。蝮の姫と婚礼をあげたからには、その夜にすることといえば一つしかないだろ? なぁ? 恒興」
まさか話を振られるとは思っていなかった恒興は、ビクッと肩を踊られて視線を泳がせた。もちろん知らないわけではないが、当の本人をして言えるわけがない。
「えっ……、えーと……」
案の定、目を据わらせた信長の視線とぶつかり、恒興はかかなくてもいい汗をかく羽目になった。
「ま、頑張れや」
信広はそう言って立ち上がった。
「異母兄上、援軍要請の折にはこの信長、いつでも駆けつけまする」
「ああ」
信長の言葉に信広はいつもと変わらぬ笑みを残し、那古野城広間を去っていった。
「信広さまは、大丈夫でございましょうか?」
信広が去るのを見届け、恒興は信長を振り返った。
「父上とともに戦場を駆けた異母兄上のことだ。心配いらんさ」
信長は膳から銚子を取り上げ、盃に酒を注いだ。
「ですが、相手は大殿も苦戦される今川義元。この時期に動いたのが気になります」
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