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「三河の松平広忠が亡くなったのが、きっかけだろうな」
「なにゆえそのことを?」
尾張から出たことがない信長が、三河のことを知り得るはずがない。
「竹千代(※のちの徳川家康)から聞いたのさ」
竹千代と聞いて、恒興は嘆息した。
「また竹千代どのに会われたのでございますか?
「遊びに誘うのが、何故いかん?」
「竹千代どのは、尾張に遊びに来ているわけではございません」
松平竹千代は、いわば人質。
本来ならば今川の人質だが、これも今川は竹千代が織田家の人質となったのも面白くないらしい。
信長が二杯目を口に運びかけ、その手を止める。
衣擦れがしたのである。
「――申し訳ございませぬ。お取り込み中とは存じ上げず……」
廊に、帰蝶が侍女を伴って立っていた。
「構わん」
「殿が柿をお好きと伺い、このようなものをお持ちいたしました。美濃の名物、干し柿にございます」
侍女が膳を置くと、そこには更に乗った干し柿があった。
「ほう、美味そうだな?」
干し柿に手を伸ばす信長に、恒興は口を開きかけた。
「お前も食うか? 勝三郎」
「いえ……」
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