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城主が塀を越えて川遊びにいくのは、信長だけだろう。
「お前、俺に大人しく座っていろと? 無理だな。顰めっ面の家臣たちの顔を見ているより、野を駆けていたほうが気が楽だ」
さすが信長も、家臣たちが自分をどう見ているかわかっているらしい。
「お立場が悪くなるだけでございます」
「お前、政秀の爺にたいぶ影響されているな。小煩いところなどそっくりじゃ」
呵々と笑う信長に、もはやお手上げの恒興である。
「ちょうどいい。お前も付き合え! 源三郎」
恒興をもう一つの名で呼ぶ信長は、そういって親指を立ててこっちへ来いと動かす。
「私まで塀を越えろと? これまで一度も越えたことがないのをご存知ではありませぬか」
「勉学もいいが偶に躯を動かせ。戦場では知恵も大事だが」
ゆくは恒興も、織田家の武将として戦場に立つだろう。
だがその時彼の前にいる総大将は、末森城にいる織田信行ではない。織田三郎信長――、恒興はそう思っている。
――そなただけは、吉法師さまの御味方でいよ。
平手政秀に言われた言葉通り、どこまでも付き従おうと思う恒興であった。
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