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「殿もお父上のことがお好きなのでございましょう?」
「よくわからん。幼い時にこの那古野城を譲られて、あとは放置だ。俺が暴れようが何も言わない。罵倒するでも諫めるでもない。せめて共に戦をすればその背を追えただろうが、おそらくそれはもう無理だろう」
父・織田信秀――、幼くして分かれて暮らさねばならなくなった信長はある意味、異母兄・信広が羨ましかった。
共に戦地を駆け、戦術などを学べたのだから。
現在も、信秀の肚がわからない。
「殿……」
「あの夜も言ったが、俺はこの首をやるわけにはいかん。たとえお前が望んでも」
婚礼の夜――、先に寝所で横になっていた信長は、背後で懐剣を抜く音を聞いた。
しかし帰蝶は、信長を殺さなかった。
万が一のときは殺せと道三に言われたという帰蝶は、その懐剣で自らの首を突こうとした。それを止めたのは信長自身だ。
「お前は蝮の娘だが、俺の妻だ。主に従うのが務めというならば、これからは俺に従え」
帰蝶は「はい」と答えて、信長の腕に抱かれた。
そう、信長にはやることがある。
信長にとっても、今川義元は倒すべき相手。だがそれは、目的の一つである。
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