第十話 宿敵! 今川義元

6/8
前へ
/141ページ
次へ
「殿もお父上のことがお好きなのでございましょう?」 「よくわからん。幼い時にこの那古野城を譲られて、あとは放置だ。俺が暴れようが何も言わない。罵倒するでも諫めるでもない。せめて共に戦をすればその背を追えただろうが、おそらくそれはもう無理だろう」  父・織田信秀――、幼くして分かれて暮らさねばならなくなった信長はある意味、異母兄・信広が(うらや)ましかった。  共に戦地を駆け、戦術などを学べたのだから。  現在も、信秀の肚がわからない。 「殿……」 「あの夜も言ったが、俺はこの首をやるわけにはいかん。たとえお前が望んでも」  婚礼の夜――、先に寝所で横になっていた信長は、背後で懐剣を抜く音を聞いた。  しかし帰蝶は、信長を殺さなかった。  万が一のときは殺せと道三に言われたという帰蝶は、その懐剣で自らの首を突こうとした。それを止めたのは信長自身だ。 「お前は蝮の娘だが、俺の妻だ。主に従うのが務めというならば、これからは俺に従え」  帰蝶は「はい」と答えて、信長の腕に抱かれた。  そう、信長にはやることがある。  信長にとっても、今川義元は倒すべき相手。だがそれは、目的の一つである。  
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加