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その年の晩秋――。
「――異母兄上が今川勢に囚われただと!?」
天文十一月九日、織田信広が守る安祥城に再び今川勢が攻めてきたという。
信広に言った通り信長は那古野城を出陣、鳴海砦までやってきていた。しかし既に、安祥城は落城、報せはそのあとに来た。
「今川は、松平竹千代との交換を要求している由」
「信長さま」
恒興が信長を仰ぐ。
「父上は、なんと言っている?」
安祥城落城の報は、末森城にも行ったらしい。
「要求を飲まれるご様子」
以前の信秀ならすぐに押し返すべく出陣していただろうが、織田信秀が戦場に立つのは、小豆坂の戦いが最後となった。
最近は末森城から動くことはなく、体調にも異変を生じているらしい。
会いに行こうと思えば会えないわけではないが、信長は会いに行かなかった。自分を良く思わぬ末森城家臣や、母・土田御前の目に晒されるのは苦ではないが、弱った父の姿を見たくなかったのである。
かくして、松平竹千代は尾張を去った。
――竹千代、いつか何処かで会おう。
馬を飛ばし国境まできた信長は、三河国の方角に向かってそう心の中で呼びかける。
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