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第十一話 前田犬千代、推参!
天文二十年、春――。
那古野城上空を、鳶が旋回していた。
大地を覆っていた雪はほとんど溶け、春煙が野を包んでいた。
信長は視線を手元に移す。
握られているのは弓矢だ。
――そういえば、勘十郎はもう元服したんだったな。
信長の二歳下の弟、織田勘十郎信行。
ゆくは末森城主となる弟とは、ここ何年か疎遠になっている。喧嘩をしているわけではないが、いらぬ騒ぎを避けた結果、足が遠のいたのだ。
「兄上――」
蒼天下、末森城を訪れた彼に幼い弟が駆け寄ってくる。
信長がまだ、吉法師と名乗っていた頃のことである。
「元気か? 勘十郎」
「お会いしとうございました」
屈託なく微笑む弟に、吉法師は救われる。
勘十郎こと織田勘十郎信行は、吉法師の二歳下の実弟である。
「来たかったんだが――」
近くにいた末森城家臣の男と目が合う。
正直な奴だ――と、吉法師は思った。
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