第十一話 前田犬千代、推参!

3/8
前へ
/141ページ
次へ
 信長が今もうつけと呼ばれ、身なりも(かぶ)いているゆえだろうが、信長は信行と家督を巡って争おうとも思ってはいない。  温厚で真面目な信行なら、織田弾正忠家当主として家臣たちに受け入れてもらえるだろう。だが、信行にはまだ合戦の経験がない。  尾張下四郡守護代・織田信友とはうまくやれても、今川と戦えるか否か。  いや、信行を操ろうとする者も出てくるかも知れない。 「如何なされましたか?」  不安が信長の表情に出ていたのか、控えていた恒興が見上げてくる。 「――父上の容態、芳しくないようだな……」  城館の庭先で弓を射っていた信長は、そう聞き返した。  織田信秀が病に伏したことにより、家督相続問題が再び騒がれ始めた。  ここ那古野城でも、一部のものが信行を推すべく動こうとしているという。 「お見舞いに行かれますか?」  信長の放った矢が、的の中心を射抜く。 「また厄介者がきたと言われるだけさ」 「素行を改められませれば、皆の目は変わりましょう」 「それでは面白くない」  信長は「うつけ」を改めるつもりはなかった。  まだ人を見定める必要があったからだ。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加