14人が本棚に入れています
本棚に追加
信長が今もうつけと呼ばれ、身なりも傾いているゆえだろうが、信長は信行と家督を巡って争おうとも思ってはいない。
温厚で真面目な信行なら、織田弾正忠家当主として家臣たちに受け入れてもらえるだろう。だが、信行にはまだ合戦の経験がない。
尾張下四郡守護代・織田信友とはうまくやれても、今川と戦えるか否か。
いや、信行を操ろうとする者も出てくるかも知れない。
「如何なされましたか?」
不安が信長の表情に出ていたのか、控えていた恒興が見上げてくる。
「――父上の容態、芳しくないようだな……」
城館の庭先で弓を射っていた信長は、そう聞き返した。
織田信秀が病に伏したことにより、家督相続問題が再び騒がれ始めた。
ここ那古野城でも、一部のものが信行を推すべく動こうとしているという。
「お見舞いに行かれますか?」
信長の放った矢が、的の中心を射抜く。
「また厄介者がきたと言われるだけさ」
「素行を改められませれば、皆の目は変わりましょう」
「それでは面白くない」
信長は「うつけ」を改めるつもりはなかった。
まだ人を見定める必要があったからだ。
最初のコメントを投稿しよう!