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「嘘じゃないよ。俺の父は尾張・荒子城主、前田利昌っていうんだ」
荒子城は利昌が織田家より荒子の地に築城したもので、その利昌は織田家家臣・林秀貞の与力であった。
「父親が家臣だろうが、無理なものは無理だ! ここを何処だと思っておる」
確かにいきなり城に押しかけて家臣にしろとは前代未聞だが、少年はなんのそのである。
「織田弾正忠家・織田三郎信長さまの城――、だろ? それに、俺は小僧じゃなくて、前田犬千代(※のちの前田利家)っていうんだ」
「この生意気な……っ」
帰らぬ犬千代に、城番の顔に青筋が浮かぶ。
「――本当にここで仕える気があるのか?」
「え……」
割って入ってきた人物に、犬千代の声も止まる。
犬千代もかなり傾奇者で父の利昌を呆れさせているが、その人物も負けてはいなかった。
歳は十代後半、長い髪を緋色の紐で高く束ね、小袖は片肌脱ぎ、どう見ても家臣には見えない。
「ここの城主はうつけと評判だ。出世の見込みは薄いぞ? なぁ? 勝三郎」
勝三郎と呼ばれた男も若く、こちらは小袖に肩衣袴と普通だ。
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