第十一話 前田犬千代、推参!

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「嘘じゃないよ。俺の父は尾張・荒子城主(あらこじようしゆ)前田利昌(まえだとしまさ)っていうんだ」  荒子城は利昌が織田家より荒子の地に築城したもので、その利昌は織田家家臣・林秀貞の与力であった。 「父親が家臣だろうが、無理なものは無理だ! ここを何処だと思っておる」  確かにいきなり城に押しかけて家臣にしろとは前代未聞だが、少年はなんのそのである。 「織田弾正忠家・織田三郎信長さまの城――、だろ? それに、俺は小僧じゃなくて、前田犬千代(※のちの前田利家)っていうんだ」 「この生意気な……っ」  帰らぬ犬千代に、城番の顔に青筋が浮かぶ。 「――本当にここで仕える気があるのか?」 「え……」  割って入ってきた人物に、犬千代の声も止まる。  犬千代もかなり傾奇者(かぶきもの)で父の利昌を呆れさせているが、その人物も負けてはいなかった。  歳は十代後半、長い髪を緋色の紐で高く束ね、小袖は片肌脱ぎ、どう見ても家臣には見えない。 「ここの城主はうつけと評判だ。出世の見込みは薄いぞ? なぁ? 勝三郎」  勝三郎と呼ばれた男も若く、こちらは小袖に肩衣袴と普通だ。
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