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「ええ。人を振り回すのがお得意ですので、苦労しますね。かなり」
「あのう……、だれ?」
混乱する犬千代に、男は告げた。
「お前が会いたいと言っているここの主だ」
◆◆◆
前田犬千代は、尾張生まれの尾張育ちである。
尾張は冬になると、伊吹おろしという風が吹く。
伊吹おろしとは、濃尾平野から渥美半島にかけての地域において、冬季に北西の方角から吹く季節風の呼び名である。
「いい天気だがや」
馬屋にて、犬千代は空を仰ぐ。
碧空にはちぎれ雲が少しあるだけで、風も穏やかだ。
さすがにこの時期は、伊吹おろしは吹かないだろう。
彼は念願かなって、信長の小姓となった。
前田犬千代、このとき十四歳。
「気楽なもんだ。いつ戦になるかもしれんのに」
共に馬の世話をする小姓仲間にため息をつかれたが、織田家家臣となったからと性格まで変わるはずもない。
聞かせば現在の尾張は外から今川に狙われ、内でも大変らしい。
「慌ててもしょうがにゃあだで。なぁ?」
馬の体を磨きながら、犬千代は馬に同意を求める。
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