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彼の癖は、気が緩むと国訛りが出ることだ。
――俺は変わっていると言われるが、ここの殿様もでら(※凄く)変わってるがや。
織田信長――、その身なりは片肌脱ぎにした小袖と簡単に括った頭髪、うつけと呼ばれて周りを翻弄させているという。
だが犬千代は、落胆することはなかった。
むしろ、面白そうだと思ったのだ。
「確かに、馬番に出陣の機会はないな」
「俺はこのまま、馬番で終わるつもりはないよ。手柄を立てて、城持ちになるんじゃ」
犬千代は近くにあった長棒を構え、えいっと前に突き出す。
まだ元服も初陣もしていないが、武将の家に生まれたからには戦で功績を挙げるのが家のため、自身のためと心得ている。
そんな犬千代の視界に、信長の姿が捉えられる。
「信長さまっ」
片膝をつく犬千代に、刀を腰に差した信長が命じる。
「犬千代、馬の用意だ」
「もう、準備はできております」
この刻限は、城下に向かうのが信長の日課だという。
だが――。
「信長さま!!」
「勝三郎、また説教か?」
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