猫と会うならもう僕は新しくとなる誰かとそして君に

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 塾の帰り道に。急に猫の声が聞こえた気がした。僕はその方向へふと歩く。  疲れていたんだろう。もう夜は更けてしまって空には月が真ん丸に浮かんでいる。普段なら気にしなかったのかもしれない。  聞こえるのは繁華街の小さな公園。 「どうしてこんなところに居るのかな」  狭い段ボールに仔猫が一匹。明らかに捨てられてる。僕はその猫を抱き上げる。  暗闇だった段ボールで猫の目が丸く月明かりに照らされて光っている。まるで水面に移しているみたい。月の瞳の猫だった。  隣にあったベンチに座って、膝にその子を乗せてみる。人を怯えることもなく仔猫は僕の手にじゃれ付いた。 「俺たちって似た者同士みたいだな」  捨てられた。その事実が僕と重なる。  高校受験は戦いだ。僕はそれに挑んでいるけど、先行き不透明。今日の塾で志望校合格は難しいと言われた。  それなのに僕はまだ必死で勉強を重ねるしかない。  僕は学歴に、この子は人に頼るしかないんだろう。 「だけど、俺と一緒にされたらお前も辛いよな」  そう。僕の問題はそれだけじゃない。家族はそれなりに円滑だ。親との関係も良好。  ただ最近は友達関係にも悩んでる。  いつもつるんでる連中は居る。だけど、そこにまた受験と言うもので蟠りができてしまった。  僕の志望校は近所では進学校と呼ばれるところ。正直高望みなのかもしれない。でも友人たちはそうでもないしい。  今日も塾で一緒だった友人たちは順調に志望校を定めている。問題は僕だけ。 「高校が違ったって仲間だからな」「頑張れば受かるよ」「勉強が全てじゃないぞ」  まあ、友人たちの言葉はこんなもの。結構優しい言葉に思える。  それでも、普段なら一緒に帰るのに今日は三人から疎外された。落ちこぼれとは付き合えないんだろう。  そりゃそうだ。僕が反対の立場ならどう声を掛けたら良いのかも迷ってしまう。彼らは言葉にできるだけ偉い。それが学力の差なのかもしれない。 「孤独なんだよ」  高く仔猫を抱き上げて呟く。それはこの子に発したのではなくて、自分に語ったんだろう。月を背負っている仔猫が「にゃあ」と鳴いている。  問題はそれだけじゃない。僕にだって恋心くらいある。受験に負けても、友達に捨てられてもこれがあったら問題ないだろう。  しかし叶わない恋なんだ。彼女はとても素晴らしい人。またしても今日のことだけど、学校で「好きな人が居るらしい」とのことを聞いた。誰にも話してない恋心だったから聞けたのだろう。でも落ち込みは一緒だ。  今の僕は本当に最低の状況だった。僕が、僕じゃなくてほかの誰かだったらこのくらいでも死んでいるのかもしれない。うん。死んでる。死にそう。死にたい。  僕のことを眺めて「みゃあ」と鳴いている。僕は泣きそうなのに。 「元気付けてくれてるのか」  あまりに愛らしくて僕は仔猫を眺めて涙を流して綴る。 「ダメだよな。これじゃあ悪いほうにしか進まないから。お前はまだ未来有るだろ」  仔猫の心臓の鼓動が僕の手に伝わり、とてもリズム正しく強い。 「取り合えず飼ってもらえるところを探すよ」  前向きに考えようと思った。この子に良い方法を見つけないとならない。僕とは違うんだから。
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