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月が見ている僕たちを冷たい風が吹く。寒さは僕たちのことなんて考えてくれない。冬を近づけている。
僕だけが新たなスタートではダメだろう。この子だって幸せにならないと。僕はこの子が居たおかげでこうして頑張れてるのかもしれない。死だって考えたのに。
こんな思いを持っているときにスマホが鳴る。それは仔猫の飼い主を探してる友人たちからだろう。良い返事があると信じている。
「あんまり順調には進まないもんかな」
友人たちからの返事は芳しくない。
「まだ良い返事がない」「みんな家の事情があるんだな」「全滅だった」
一応まだ拡散した人からの返事を待っているが、今のところは飼ってくれる人間は居ない。それでもまだ仔猫の写真は違うグループまで広がっている。希望はあるんだ。
こんなに可愛らしい仔猫なんだから飼ってくれる人は居るだろう。ダメだ。ポジティブに考えよう。さっきそうしようと思ったばかりじゃないか。
ちょっと寒そうな猫を僕のジャケットへと滑り込ませる。暖かいのか仔猫は僕のお腹のところで丸まってころころしている。ちょっとくすぐったい。
空の月明かりに白い吐息が舞う。これからもっと寒くなる。見上げた月はそれを証明するみたいに綺麗に輝いている。
「お前も幸せにならないとな」
僕が拾ったことを幸運にしなければならない。この寒空にいつまでも人に見付からなかったらこんな小さな仔猫は死んでしまったかもしれない。それを違う運命に引き戻したい。
それでも中々世間は厳しいらしい。友人たちからのメッセージは届かない。まだ飼ってくれる人は見つからないみたい。
僕にはもうコミュニティがないからどうしようもないのかもしれない。違う。歩く人たちに声を掛けても良いのかもしれない。だけどそこまでの行動力は僕は持ち合わせてない。
新しい自分になったんだ。このくらい怖くない。自分に言い聞かせるけど、足は動こうとしないでベンチから立ち上がれない。まだ弱っちい僕が残ってる。
「頑張るよ。お前の為だからな」
仔猫で膨れたお腹をポンポンと優しく叩いて、スッと立ち上がってみた。
公園の向こうの通りは店舗が並んでいて明るい。普段はその明るさに安心していたのに、ちょっと怖い気分。今は月明かりくらいが丁度良い。
僕は通りを眺めながらまだ足を進めなかった。その合間にも仔猫はゴソゴソと転がって遊んでいる。段々と夜は更けて学生の僕の居る時間ではなくしている。
「今日はうちに連れて帰ろうか。一日くらいどうにかなるから。お前はどうする?」
完全に負けてしまって僕は懐を眺める。その時に僕を見ている煌びやかな仔猫の瞳は月を映してる。僕は逃げたくないと言うことが浮いてた。
「悪いよな」
軽く弱さ吐いてからの明るくて怖い道のほうを眺め心を叩く。どんなに勇気を出しても怖さは募っている。それでも僕は進まないとならないと思っていた。こんなに新しい自分と会えた日はないのだから。
雲すら掛からない月を眺めて一つ深呼吸をする。落ち着く気分。そして仔猫の鼓動も確かにある。負けないぞ。
光り輝く街のほうへ歩く。
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