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「将来についてどう思ってる?」
私がそう問いかけると、特上のフィレ肉を口に運ぼうとしていた侑斗がピタリと止まる。
固まると言ったほうが、正解か?
この手の話題はずっと避けてきたが、もう後には引けない。
「なんだよ改まって。どうした?」
「面倒くさい女だって思われるかもしれないけど、どうしても確認しておきたくって」
「俺はこれからも春香と楽しく付き合えたらと思ってる」
「楽しく…」
自分でも驚くくらいの、気落ちした声が漏れる。
『楽しい』とは一体なんだ?
なんの責任も負わずに、ただその日が楽しければそれでいい?未来を語り合うこともなく、約束さえせずに今を謳歌するというの?
それって…無責任っていうんだよ。
いつもなら、こういった侑斗の楽観的なところも魅力に思えるのに、今日ばかりは優柔不断にしか映らなかった。
「はっきり言うね?私、もうすぐ30歳でしょ?侑斗と付き合ってもう二年になるけど、やっぱり将来のことが不安なの。ただ楽しく恋人気分を味わうよりも、私は確かなものが欲しい。でも侑斗がそうじゃないっていうのなら、このまま付き合っていても仕方がないと思う」
全てを吐き出すと、涙が込み上げてくる。
それは気持ちを打ち明けた安堵なのか、それとも…?
侑斗の返答次第では、終わりを告げるだろう。
口を開くまでの時間が、永遠にも感じられた。
「お、俺は──」
ゴクリと唾を飲み込む。
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