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嘘だろ!?
こんな馬鹿なことってあるか?
だ、誰か夢だと言ってくれ!悪い夢だと!
だが目が覚めることなく、確実に絶望までの距離が狭まっていく…。
同僚だと誤魔化すか?
いや、無理だ。浩子は誤魔化せても、春香に俺が既婚者だとバレてしまう!
せ、席を立ってしまおう!
今ならまだ──無理だ。今、立ち上がれば完全にアウト。ここに俺がいると知らせているようなもんだ。
春香の背後の観葉植物を盾に、身を小さくする。
どうすればいい?どうすれば…?
側を通りかかった給仕から、思わずメニューを引ったくった。
すぐに広げて顔を隠し、なるべくテーブルに伏せる。
「ねぇ、どうかした?」
こ、こっちにきた!
運の悪いことに、隣のテーブルが空いてるじゃないか!
あぁっ、もうダメだ。
もう終わりだ…。
「お客様ー?」
近くで、ウエイターの声がした。
「あちらのテラス席が空きました。お子さん、景色が見えたほうが喜ぶんじゃないですか?」
「あらそう?じゃ、向こうにしようか?」
「お外だー!」
無邪気な声が遠ざかっていく。
あぁっ…。
椅子から滑り落ちるかと思うくらいの、脱力感。
なんとか座り直すと、心の中で自らに喝采を浴びせる。
この大ピンチを切り抜けたのは、日頃の行いのお陰。
俺は神様に味方されてるんだ!
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