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しかし、まだ窮地に立たされていることには変わりはない。
同じ空間に、妻と交際相手が介しているんだ。
コースはメインにすら到達していないので、ここで春香を追い立てて出るのは、あまり頂けないだろう。変に押し問答になって、かえって目立ってしまう。
それならば…。
「ちょっとトイレに」
自分だけ席を立つ。
とりあえず個室に飛び込み、自分を落ち着かせる。
大丈夫だ、まだ見つかったわけじゃない。
ただ、このままテーブルに戻るのは避けたい。いくら席が離れているとはいえ、あまりに危険すぎた。となると、おのずと選択肢は限られていく…。
「具合が悪くなったことにするか」
言葉にすると、決心が固まる。
誕生日の春香には申し訳ないが、ここで見つかってしまえば来年も祝えなくなる。それは春香も望んではいないはず。
俺たちの未来に向けて、ここはあえて我慢をしてもらおう。
そうだ、そうしよう!
まず、こっそり支払いだけして店を出て、安全圏内まで離れてから連絡するか…それともウエイターに伝言を頼んでおくのもいい。
どっちみち、今の俺は顔色が悪いだろうから疑われることもない。
「…よしっ」
自分を鼓舞し、辺りをうかがってからトイレを出る。
そこで、ばったり香織と出会した。
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