650人が本棚に入れています
本棚に追加
「わぁー!パパだー!」
「シーっ!静かにっ!」
大きな声を出さないよう諭したが、香織はパパの登場に大興奮だ。
「パパ、ちょっと用事が…」
「ママと来たんだー!」
屈託ないのはいいが、俺の手を掴んで離してくれない。
強引に振り払って、香織の幻覚ということに──。
「…あなた?」
心配でやってきたのか、浩子が怪訝な顔をして立っていた。
「あぁ、さっき商談が終わったんだ。まさか同じ店だったなんてな。前に来てみたいって言ってただろ?こんな偶然ってあるんだな?」
「じゃ、パパも一緒に食べよーよ!」
ぐいぐいとテラス席に引っ張られて、つい席についてしまう。
店員にも顔を覚えられているし、俺のことを心配した春香がいつ席を立つか…。
「ごめんな、会社の人と一緒だから」
それだけ言って、急いで二人と離れる。
そのまま店を出ようとしたが、今度はカバンがないことに気づく。
先に店から出た方が安心だが万が一、カバンが浩子に見つかったら?
一番いいのは、春香の元に戻って『具合が悪い』と告げて、そそくさと立ち去る。
もうこれしかない!
「すまない、ちょっと具合が…」
そこまで言うと、背後に気配を感じて振り返った。
──なっ!?
「ど、どっ、どうしたんだ?」
目の前の浩子は、涼しい顔で微笑んだ。
「ご挨拶しようと思って」
そして俺の前に歩み出る。
最初のコメントを投稿しよう!