【ダブルバースディ】

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「わぁー!パパだー!」 「シーっ!静かにっ!」 大きな声を出さないよう諭したが、香織はパパの登場に大興奮だ。 「パパ、ちょっと用事が…」 「ママと来たんだー!」 屈託ないのはいいが、俺の手を掴んで離してくれない。 強引に振り払って、香織の幻覚ということに──。 「…あなた?」 心配でやってきたのか、浩子が怪訝な顔をして立っていた。 「あぁ、さっき商談が終わったんだ。まさか同じ店だったなんてな。前に来てみたいって言ってただろ?こんな偶然ってあるんだな?」 「じゃ、パパも一緒に食べよーよ!」 ぐいぐいとテラス席に引っ張られて、つい席についてしまう。 店員にも顔を覚えられているし、俺のことを心配した春香がいつ席を立つか…。 「ごめんな、会社の人と一緒だから」 それだけ言って、急いで二人と離れる。 そのまま店を出ようとしたが、今度はカバンがないことに気づく。 先に店から出た方が安心だが万が一、カバンが浩子に見つかったら? 一番いいのは、春香の元に戻って『具合が悪い』と告げて、そそくさと立ち去る。 もうこれしかない! 「すまない、ちょっと具合が…」 そこまで言うと、背後に気配を感じて振り返った。 ──なっ!? 「ど、どっ、どうしたんだ?」 目の前の浩子は、涼しい顔で微笑んだ。 「ご挨拶しようと思って」 そして俺の前に歩み出る。
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