650人が本棚に入れています
本棚に追加
「香織…どこ行ってたの?探したのよ?」
どうやら母親らしい女性は、そう言って私のほうをうかがう。
「お姉ちゃんも誕生日なんだって!」
まだ私と手を繋いだままの香織が、奇妙な偶然を報告する。
「あら、そうなんですね。それでこの子ったら、ごめんなさい」
「いえそんな、私もなんだか楽しくて」
「お誕生日おめでとうございます」
微笑んで軽く頭を下げる所作からは、品の良さが垣間見える。
「香織ちゃんも、おめでとう」
私も祝いの言葉を贈ったが、当人の関心は他のところにあった。
「パパはー?」
「まだお仕事が残ってるから帰ったわ。そんな顔しないの、明日またお祝いしてもらうでしょ?」
「いいね、明日はパパを独り占めにできるね」
「うん、遊園地に行くの!」
瞬時に元気になった香織とその母親と別れ、テーブルに戻る。
しかし、まだ侑斗の姿はない。
やっぱり何かあったんじゃ…?
連絡を取ろうとスマホを取り出すと、ちょうど侑斗からメッセージが届いていた。
気分が悪くなったので、先にお店を出たという。
私には最後までコースを楽しむよう書いてあるが、一人で食べても仕方がない。
それに、なにより侑斗のことが心配だ。
すぐに席を立って、退店することにした。
途中でテラス席を見やると、ご機嫌な香織の笑顔が目に入り、こちらまでつい笑顔になってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!