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「えっ、それって…?」
「ちゃんと考えてるから。今、仕事が大事な時なんだ。それが無事に終わればと思ってる。それに父親のこともあるし」
「そうだよね、勝手なことばっかり言ってごめん」
居住まいを正し、侑斗に向かって頭を下げる。
脳梗塞を患った父親の介護をしているため、思うように時間が合わない時があった。けれど事情を知っている私は、あまりワガママを言わないよう、気をつけていた。
「でも、私も出来るだけ協力する。将来、一緒になるんだから」
気持ちが昂って、つい口をつく。
でも添い遂げる相手の父親なんだ、それなりの覚悟もある。
「ありがとう。俺、春香に甘えてたんだよな?不安な気持ちにさせてごめん」
「ううん、いいの。侑斗の気持ちが分かっただけでも嬉しい」
それからは話が弾み、いつもよりお酒も多く飲んだ。
あぁ、良かった。
同じ気持ちでいてくれたんだ。
こんなに好きなんだもん、別れたくはない。
聡美にメールもしないと。
きっと今頃、心配してるだろう。
「そろそろ行こうか?」
顔を赤らめた侑斗が立ち上がった瞬間、魂が抜けたように傾いていく。
「ちょっと、大丈夫!?」
なんとか支えたものの、持っていた鞄がひっくり返って中身が方々に散らばった。
酔っている侑斗を座らせ、手帳やらバインダーを拾い集める。
──ん?
これも、侑斗の?
光るものを手にした私は、その場に立ち尽くす。
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