【隠された結婚指輪】

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「ごめん、お待たせ」 ベンチに駆けてきた聡美が買ってきた昼食を食べ始めると、スパイスの効いたカレーの香りが漂う。   キッチンカーが割安だと言うが、ランチ一食でお札が飛んでいくのは痛い。 私はというと、膝の上で味気ないお弁当を広げる。 せめてもの彩りに紛れ込ませたプチトマトとブロッコリーが、なんだか逆に痛々しい感じがした。 「ホントにマメだよね。私なんか、弁当を作る暇があるなら一分でも寝てたいわ」 「適当に昨日の残りを詰めてるだけだから」 「それだって、昨日の晩ご飯が自炊ってことでしょ?」 感心したようにも、呆れているようにも見える。 この同僚は裏表がなく、私とは考え方も生き方も真逆だから、こうやってウマが合うのかもしれない。時折、なんでもはっきりと言う聡美のことを羨ましいと思う自分がいた。 「なるべく節約して、将来のために備えたいし」 「春香らしいといえば、らしいけど。それなら彼氏とはどうなのよ?」 ズバっとストレートに投げかけてくるところは、聡美らしい。 「うん、変わりはない…かな」 「なによ、その奥歯に物が挟まったようなの。変わりないならいいんじゃない?浮気とかする人じゃないんでしょ?」 「それはそうなんだけど、前にも進んでないっていうか」 「あぁ、そういうことか」 訳知ったりという顔で、聡美が何度も頷く。 きっと、自分の身に置き換えて納得したんだ。 私たちはもうすぐ、三十路を迎える。
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