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それぞれ注文を済ませると、俺と春香は隣同士に座り、向かいに聡美が腰を下ろす。自然な流れではあったが、後ろめたさが汗となって流れていく。
「そんなに暑いですか?」
俺に問いかける声までも、凍てつくくらいに冷たい。
「侑斗、そんなに汗っかきじゃないのにね?」
「他に理由があるんじゃないです?」
「他にって?」
「さぁー?分からないけど」
そんなやり取りを冷や冷やしながら聞いていた。
生きた心地がしなかったが、どうやら聡美は俺のことをじわじわとなぶり殺しにするつもりらしい。
「春香から聞いたんですけど、プロポーズしたんですよね?」
「…あぁ」
「それ、本気なんですか?」
「ちょっと聡美、どうしたのよ?」
春香が慌てたように取りなすも、この女は俺から鋭い視線を外さない。
「春香のお母さんじゃないけど、本当に結婚する意思があるのか確かめたいの。もし春香が騙されてたりしたら、許せないし。友達として当然のことじゃない?」
「気持ちは嬉しいけど、ちゃんと侑斗はプロポーズもしてくれたから」
懸命に俺を庇ってくれる春香はいじらしいが、決定打を持っているのは聡美のほうだ。
「だからそれが本心か知りたいのよ」
粘っこい追求に、この場の空気が凍りつく。
このままじゃ、聡美の口から俺が既婚者だと暴露されるんじゃないか?
そうなる前に、俺の口から打ち明けたほうが…?
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