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何も言い返さないのを肯定と受け取ったのか、聡美が攻撃的なため息を吐く。
「…呆れた。奥さんと子どもがいるのに、それを隠して春香と付き合ってるんですね?しかもプロポーズまでして。自分が何をしてるか自覚あります?」
腕組みをして俺を睨(ね)めつけながら、首を振った。
あり得ないという風に。
「私まだ、お互いが不倫だと知ってるならあれこれ口出すつもりはありません。今の時代、不倫するリスクも知れ渡ってるし、いい大人なんだからしたいならすればいい。でも一番タチが悪いのは、結婚してるくせにそれを隠してるってこと。春香があなたにプロポーズされたって、どれだけ喜んでるか知ってます?」
「それは…」
「あぁっ!答えなくていいです、聞きたくないんで」
後輩の雑な扱いも、甘んじて受け入れるしかない。
それくらいのことを、俺はやったのだから…。
当事者ではない聡美がこれほど怒り狂うということは、春香ならどうなる?1発くらい殴られるだろうか?
「最低最悪のクズ男ね」
そんな非難に顔を上げたのは、なぜか聡美が笑ったからだ。
失笑の類いとはまた違う、嫌らしい笑み。
「それで、どうするんですか?」
「えっ?」
「春香に打ち明けます?実は不倫だったんだって」
聡美に知られてしまった以上、そうするしか選択肢はない。
しかし、次の瞬間だった。
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