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「久しぶりだな、外で食べるの」
そう言ってやってきたのは、私の王子様である酒井侑斗(ゆうと)だ。
「たまに気分を変えてみたくって。ここ、なかなか予約が取れないの」
「いい匂いがする」
香ばしい匂いを吸い込んみながら、店に入っていく侑斗の後に続く。
付き合って二年にもなると、あちこち食べ歩くことはしなくなった。大体、私の家で手料理を振る舞うことが多く、その後はお酒を飲みながら映画を観たりと、ごく普通の恋人同士の日常だ。
それを私は『夫婦』に昇華したいと思っているが、果たして『夫』はどうなのか?
個室に案内され、向かい合ってメニューを開く。
これから話す話題で気が気じゃ無かったが、料理は予め懐石のコースを頼んである。
お酒を吟味して私はレモンサワーを、侑斗は希少な日本酒を注文した。
「ねぇ、初めて会った時のこと覚えてる?」
「なんだよ急に」
「もう忘れてたりして」
わざと茶化してやると、ややムキになった侑斗が事細かに説明をし出す。
私には当時、学生時代から付き合っていた彼がいた。
しかし『他に好きな子ができた』と振られ、その後で観た映画館でストーリーがリンクして、込み上げるものを抑えられなかったんだ。
「おいおい泣き出すからびっくりしたよ。まるで俺が泣かせてるみたいでさ」
あの時の侑斗の慌てっぷりを思い出すと、つい笑ってしまう。
そこから付き合いが始まった──。
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