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私は人を待っていた。
少し胸が高鳴っているが、待ち人は侑斗ではない。
数年振りに会うその人は、遥か前方からでもその姿を確認できる。
それほど、黒田淳司は大きくて目立っていたんだ。
「急に悪かったな」
目の前までやってくると、幼馴染はやや目尻を下げた。
体は大きいし、髪の色こそ黒くなったものの、眼光も鋭くて厳ついが、笑うと途端に優しい印象になるのを私は知っている。
『少し会えないか?』という連絡が来て、このあと侑斗と会う約束をしている私は、早めに仕事を終わらせたというわけだ。
「ううん。アッくんこそ、引っ越しのことごめんね」
180㎝をゆうに超えている淳司が、こちらを見下ろす。
「なんでお前が謝るんだよ?俺が勝手にやってんだから」
「でも、私のお母さんだし」
「おばさんは俺にとっても母親みたいなもんだから、気にすんなよ」
「ありがとう」
「今日は仕事でこっち出てきたんだよ」
「仕事って、庭師の?」
「あぁ。俺の腕を見越して、依頼してくれる会社があってな」
「凄いじゃない!」
思わず跳び上がって手を叩く。
あれだけ荒れていた淳司が、真面目に庭師の仕事に打ち込んで、こうしてその力を見込まれた。なんだか自分のことのように嬉しかったんだ。
「春香──」
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