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「じゃあな」と、あっさりを背を向ける淳司が離れていく。
その大きな背中が見えなくなるまで、私はずっと見送っていた。
淳司の気持ちが嬉しい。
ああは言ったが、絶対に「幸せになれよ」と言いに来てくれたんだ。
わざわざ、そのためだけに…。
「──春香?」
そんな声に振り返ると、侑斗が立っていた。
「あっ、侑斗」
「遅れて悪い。今、来たとこ?」
「えっ…あっ、そうなの。さっき来たばっかりだから待ってないよ」
取り繕うようにそう言うと、一緒に歩き出す。
まだ淳司の顔が頭に浮かんでいたが、ふと気づくと侑斗との距離がだいぶ離れていた。
慌てて追いつき「どこに食べに行く?いつものところ?」と声を掛けるも、振り向かない。
聞こえなかったのだろうか?
この至近距離で?
よく観ると、横顔がこわばっている。
「侑斗?仕事はどう?大きな契約が取れるかもって言ってたけど?」
しばらく待ったが返事はなく、それどころか私を振り払う勢いで闊歩していく。
間違いない。
わざと一言も喋らないんだ。
問いかけをことごとく無視するほど、なにか怒ってるということ…?
「ねぇ、侑斗っ!」
身に覚えのない私は、やや強めに呼び止めた。
すると立ち止まった侑斗が、ため息まじりに振り返る。
その顔は、烈火のごとく怒りに震えていて──。
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