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「えっ、幼馴染ですか?」
部下の田崎が、ジョッキを手に首を傾げる。
大きな契約が成立したのを祝うため、二人で馴染みの居酒屋にやってきていた。
「あぁ、居ますかね。同級生でもなくて、昔っから知り合いの女友達が」
「やっぱり、特別な存在なのか?」
「そりゃ、一緒に風呂も入って互いの裸も知ってたりしますけど…大人になってから疎遠になったかなぁ」
昔を思い出しているのか、田崎の顔がにやける。
あれから春香から、淳司という幼馴染が母親の引っ越しを手伝い、たまたまこっちに出てきて少しだけ話したんだと聞かされていた。
「幼馴染、先輩にもいるんですか?」
「いや、俺には居ない」
「あっ、分かった!じゃ、奥さんだ。倦怠期の夫婦の前に、妻の幼馴染が現れて夫が動揺するってやつ」
「なんだそれは?しかも倦怠期って」
「揺れ動く妻の気持ちに気づいた夫は、妻から目が離せなくなって、見事にセックスレスを解消する」
「お前、ドラマの見過ぎだよ!」
軽く頭を叩(はた)いてやった。
幼馴染というものに特別感を抱くのだとしても、春香はもう心配はない。
俺の言う通りに削除したし、もう裏切ることはないだろう。
これからも俺だけのことを見るはずだ。
他の男には目もくれずに。
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