650人が本棚に入れています
本棚に追加
「今週、香織の誕生日だから!」
朝の食卓で、愛娘が何度も何度も釘を刺してくる。
「ちゃんと分かってるって。土曜日だよな?」
「でも、その日は仕事なんでしょ?」
バターが香るクロワッサンをテーブルに置きながら、浩子が確認した。
「悪いな、大事な商談なんだ。その代わり、日曜日は空けてあるから」
「遊園地に行くんだからね!」
「あぁ、いっぱい遊ぼうな?」
約束すると、香織はテンションマックスで騒いでいる。
「早く食べなさい。じゃ、土曜日はママとお買い物にでも行こうか?パパは一日遅れだから、ママがその日にお祝いしてあげる」
どこか嫌味にも聞こえたが、触れないでおこう。
まだ子どもの香織にとって、誕生日の日付はそれほど重要ではない。
あぁ、助かった。
分からないよう、心の中で安堵する。
実は…春香の誕生日も、全く同じ日だったからだ。
こちらは分別のついた大人なので『その日』に祝う意味合いが大きい。
それに幼馴染のことで、俺の言いなりだった春香への愛おしさが倍増しており、今年は優先権を与えてやろうと思う。
土曜日は春香と過ごし、日曜日に香織と遊園地に行く。
忙しいが、なかなか充実した週末になりそうだ。
二人が同じ誕生日というのも、なにか運命めいたものを感じる。
ドラマの主人公にでもなったかのような…。
最初のコメントを投稿しよう!