649人が本棚に入れています
本棚に追加
春香との誕生日は、都心から離れたレストランにした。
これまでは完全個室の店か、春香の家でこもって祝っていたが、喜ぶ顔が見たくて俺なりにプランを立てたんだ。
どちらかというと、いつも任せっきりだったし、あまり表立って目立ちたくはない。けれど今日だけは、開放的な店内で俺たちの仲を見せつけてやってもいい。
「少し遠いけど、素敵なお店ね。来たことあるの?」
「いや、ないよ。春香のために何処がいいか考えてさ」
スラスラと嘘が口をついて出る。
この店は、浩子が雑誌で見つけて行きたいと言っていた。香織が好きそうな子ども向けのスイーツもあるからと…。
「それでわざわざ予約してくれたの?ありがとう」
「そんなの当たり前だろ?誕生日、おめでとう」
そう言って、シャンパンで乾杯する。
「ここはスイーツが有名でさ。春香、甘いもの好きだろ?」
「うん、コースのデザートも楽しみ!」
この上なく幸せそうな顔で、わずかに頬を赤らめている。
春香は、雛鳥のようなもの。
親鳥である俺の手のひらの上で、ただこちらを仰ぐだけ。
こうして目を潤ませているのも、運ばれてくる料理に感動するのも、全ては俺がそうさせているんだ。きつく叱れば、長い付き合いであろう幼馴染をばっさり斬り捨てる。
俺のことを愛するだけでなく、敬い、崇め、盲信している春香を見ていると、心が深く満たされていく。
それは決して、妻には抱くことがない特別な感情。
最初のコメントを投稿しよう!