【ダブルバースディ】

7/13
前へ
/327ページ
次へ
春香との誕生日は、都心から離れたレストランにした。 これまでは完全個室の店か、春香の家でこもって祝っていたが、喜ぶ顔が見たくて俺なりにプランを立てたんだ。 どちらかというと、いつも任せっきりだったし、あまり表立って目立ちたくはない。けれど今日だけは、開放的な店内で俺たちの仲を見せつけてやってもいい。 「少し遠いけど、素敵なお店ね。来たことあるの?」 「いや、ないよ。春香のために何処がいいか考えてさ」 スラスラと嘘が口をついて出る。 この店は、浩子が雑誌で見つけて行きたいと言っていた。香織が好きそうな子ども向けのスイーツもあるからと…。 「それでわざわざ予約してくれたの?ありがとう」 「そんなの当たり前だろ?誕生日、おめでとう」 そう言って、シャンパンで乾杯する。 「ここはスイーツが有名でさ。春香、甘いもの好きだろ?」 「うん、コースのデザートも楽しみ!」 この上なく幸せそうな顔で、わずかに頬を赤らめている。 春香は、雛鳥のようなもの。 親鳥である俺の手のひらの上で、ただこちらを仰ぐだけ。 こうして目を潤ませているのも、運ばれてくる料理に感動するのも、全ては俺がそうさせているんだ。きつく叱れば、長い付き合いであろう幼馴染をばっさり斬り捨てる。 俺のことを愛するだけでなく、敬い、崇め、盲信している春香を見ていると、心が深く満たされていく。 それは決して、妻には抱くことがない特別な感情。
/327ページ

最初のコメントを投稿しよう!

649人が本棚に入れています
本棚に追加