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「誕生日おめでとう」
改めてグラスを持ち上げると、春香も俺に習う。
なにもかもが思い通りになることの、居心地の良さ。
やはり浩子では、この俺の自尊心を満足させることはできない。
家庭を大切だとは思うが、この貴重な時間は俺が潰れないために必要不可欠だ。
「ありがとう。これからも、末長くよろしくね」
「もちろん。来年もこうして祝いたいと思ってる」
俺が俺であるために、心からそう思う。
そのうち、春香が望むように離婚しようか?
浩子とは可もなく不可もなくで、焼けつくような恋愛感情はない。うまく別れて、香織だけ引き取るのもいい。きっと春香なら、いい母親になるんじゃ──?
そこまで考えて、想像が具現化したことに血の気が引く。
「──えっ?」
「ん?どうかした?」
声に出したつもりはないのに、あまりのことに漏れたんだ。
「…いやっ、なんでもない!」
慌てて答えたが、うまく笑えていただろうか?
いや、無理だ。
こんな状況で笑えるはずがないじゃないか!!!
なんで?
なんで??
なんで──ここにいるんだ?
今日は買い物に行ってるはずじゃないのか!?
「ママー、早く食べたーい!」
聞き覚えのある声が、耳に突き刺さる。
やばい!
やばいやばいやばいやばいやばい!
このままじゃ、見つかってしまうじゃないかっ!
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