※シーン03:そして、やっぱり。

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※シーン03:そして、やっぱり。

* * * ※シーン03:そして、やっぱり。 「あー、やっぱり休みの日は解放感でいっぱいだー!」  打って変わって男装を脱ぎ捨て、解放感に浸るすもあである。   「でもねでもねっ!あの御屋敷のいい所見つけた!WiFi!!そこだけ!!!」    決して『個人の感想です』とならないあたりが、執事としてお仕えしている『園田(そのだ)家・クオリティー』なのである。   「お給金は……ねぇ?……ハハッ……」    どこかのネズミめいた乾いた笑いも出るというもので。  閑話休題。気を取り直したすもあは、打って変わっていつものペースを取り戻すと、くるくると回りださんばかりのテンションで言った。 「……御屋敷に戻ったらたぬちゃんさんの声に会いに行こうっと!……むふふふー!」  そして、駅前のお馴染み、コインロッカーの前に立っている人物にふと目を止めた。 「……?コインロッカーの前に誰か居る……ぞぇ?」  振り向いたのは、完全に初対面。だが、 「……じゃぱにーずがーる……?」 「?!」 (ハーフっぽい人?!なのに英語の発音下手すぎ!!) 「わぁお。いっつあめいじんぐ!!……はろー?」 「お、おお、えーと……あいむ、のっと、」  発音が下手だろうと、相手が外国語で話しかけてきてるのなら、と応戦しようとしたすもあだったが。 「……いや、日本語でおkくらい言えや」 「ええっ?!!」  突如出てきたナチュラリングな日本語に、逆に飛び上がってしまう。  え、なんなん?このひとなんなん??? 「って……あ。ごめんご!いきなりボケ求めちゃあかんかったわ。通り魔かよっ!……許せ!(ばちこーん☆)」 「ええと……初めまして……?」  なんだコイツは。と警戒しても仕方ないと思う。 「(にこっ)初めまして、こんにちは!」 「あ、こんにちは?」  ……あれ、?なんか空気変わったような、と思う間があればこそ。 「(爽やかに)挨拶ありがとう!オレは『りあむ』って言います!良かったらあなたのお名前と軽い自己紹介を……」  まるでどっかの……配信者っぽいな???と首を傾げつつ、 「え?」 「ん?」  その、うさんくさい笑みはなんなんだ。  だからなんなんだコイツは……? 「あの、りあむ…さんは、なにしてたん……かな……?」  警戒心いっぱいですもあがそう尋ねると。 「おお!そうそう。この辺にさ、このくらいの財布落ちてなかった?」 「財布?……落としたの?!」 「この辺でぶつかったら、なんか無くなってて。中身はドルとカードやからいいんだけどさー。あの財布、プレゼントしてもらったやつだから」 「え、あたしもここで無くしたんです!!先々週!!」  すもあはよみがえる記憶と状況に、思わず身を乗り出した。  あたしの時とまるっきり一緒やん!! 「わっつ?マジか?!……あー…なんとなく察したかも」 「?なにを?」  んーとなにやら考えをめぐらしつつ、片手を差し出すりあむさん。 「その前に電話しないと……ちょっち電話貸してくれない?」 「あ。どぞ」  特に抵抗もなく、その手に自分のスマホを渡す、すもあである。  「てんきゅー!えーっと……ん?このアプリ、」 「え?ご存知?」 「ご存知も何もオレ… ――ぶふあっ?!」  不意にその顔面に叩きつけられる勢いで投げよこされたのは、大量の財布だった。どこから来たんだろ、とそのやってきた方向を目で追う。  すると、姿を現したのは、何故か、すもあの……というか朱亜(しゅあ)の先輩執事である木崎映瑠(きさきえいる)だった。 「(ふぅ)……やっと見つけたぞ、バカめ……っ?!」  そして、すもあと目が合うと、びくりと固まる。 「あ。せん……いや、お久しぶりです!木崎(きさき)さん!!」 「あ、ああ、うん、お久しぶりです、すもあさん」  なにやらお互いに若干気まずい再会である。 「ァにすんだ!こんの馬鹿力ァ!!」 「お兄様になんの用だ?弟よ」  そしてりあむに関してはこの態度である。 「まず謝って?!!顔面モロいったから!!!」  きゃんきゃんと吠える様は、まるで子犬だが、幸いにもそれを指摘する人間はいなかった。 「……って?……財布!!!!」  そして、あたりに散らばるのは、二十は軽くある量の財布。  その一つを拾い上げるりあむは、明らかにほっとした顔をしていた。 「おにい……?!あっ!あたしの無くした財布も?!」  ピスタチオグリーンの三つ折り財布は、間違いなく、すもあのものだ。  『超絶戦士・タタッ☆キラー』のキャラクターものの根付ストラップがくっついているのも確定要素である。     木崎(きさき)…いや、映瑠(えいる)がどこかうんざりしたような顔で長い息を吐いた。 「この辺はスリが多いんだ。しかも、そいつらの中にはうちの坊っちゃまと繋がっている不良も混じってる」 「げっ、あのクソ野郎ども……あっ、」  思わずすもあのままで、素の罵倒が出てしまったが、映瑠(えいる)はまったく気にしたそぶりもなく、 「だから坊っちゃまの手に渡る前に、こっそり回収してきた」 「……回収?」 「おお、はあく。さすがさ」 「お兄様、な?」  食い気味にしかも威圧感たっぷりに言われて、うっと言葉に詰まる弟である。 「……にーさま、」 「よし……」  そして打って変わって、菩薩のごとく優しさで、すもあに笑いかけるという映瑠(えいる)であった。 「すみません、すもあさん。流石に全額は回収出来ませんで」 「……回収???」 「そこは触れない方がいいと思う」  すかさず飛んできたどこか哀れな弟の言葉に、すもあも頷く。 「……うん、わかった!とりあえず頷いておくね!!」 「懸命だと思います」  清々しいほどの優し気な微笑みに、むしろぞっとしたのは、弟のりあむだけなのだろうか……。
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