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※シーン05:その夜の枠にて
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※シーン05:その夜の枠にて
その日の夜、綿貫サクマ(わたぬきさくま)の定期配信があった。
もちろん、すもあもそれに参加したのだが。
「もあもあさん……」
「ん?なに?たぬちゃんさん!」
「ううん、なんでも?」
「たぬちゃんさ……」
「なぁに?」
「あっ…ううん!なんでもないですお……」
いつもなら。
そう、いつもなら感じない、お互いの妙な距離感に、サクマもすもあもどうしていいのか分らないままだった。
「……」
「……」
「(なんか……話しかけづらい)」
「(なんで、距離?取られてるのかな……?)」
サクマは、サクマで。
すもあは、すもあで。
上滑りしたままの空気を払拭できなくて。
(……聴かれるのかな、?)
サクマは訝しんでいた。
(引退した理由とか…リアとの事とか、色々……)
すもあの口から訊かれるのは、……少々辛い。
痛みとして、突き刺さるだけじゃきっと足りない気がする。
そして、すもあの方は、サクマの雰囲気がいつもと違うのに気がついている。そして、どことなく拒絶されているのにも。
(……あたし、なんかしたのかな……?)
(……なんだろ……)
目の前に広がった距離は壁となって立ちふさがる。
すもあには、その意思がないのに、サクマは自身の内面にある疑心を持て余していた。
そして、会話は特に弾まないまま、ただ時間は過ぎていった。
(どうしよう。会話が続かない…えっと、、枠時間はあと……)
サクマの焦りから、ほぼ無言に近い配信になっている現実。
(今、どんな顔してるか、目も表情も分からないのって、なんだかちょっと……)
アイコンや、背景などは分かる。
でも、直接彼女の…綿貫サクマ(わたぬきさくま)の顔と目を見て話せない事実が、ここにきて、なんだか酷く悲しかった。
――どんな表情で、どんな感情で、今居るのかな……?
それは決して、叶うはずがない想いなのに。
「……ごめん、今日は配信ここまでにするね」
「えっ?!……あ。『終了しました』……」
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