※シーン06:おくすりが欲しいね

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※シーン06:おくすりが欲しいね

* * * ※シーン06:おくすりが欲しいね 「……それで?」 「……それで、とは?」  その翌日。木崎(きさき)弟こと、木崎りあむをカフェに呼び出したすもあであった。 「いやさ、オレら会うの二回目だよね?何ナチュラルに連絡先知ってンの?」 「え?せん……おっと、おにーさんに聴いたんだけど」 「はァ?!」 「って、ガラ悪っ?!」 「いや、は?……マジで、はぁ?!」 「喘がんでもろて…?」 「…にーさまに聴いたって?」 「?だめだった?」 「不思議そうな顔しないで?!…じゃのーてぇ……!」 「え???」  木崎(きさき)りあむの脳内で、その兄が絶対零度のほほ笑みで言った。 「綿貫(わたぬき)サクマの正体を彼女にバラしたら……分かってるよね……?」  そして弟の背中へ、モロに冷たい震えが這い上がってくる。  ぶる、と震えながら、りあむはすもあに言った。 「……イヤ、ナンデモアリマセンゼ?」 「ぅに???」 「マジで、気にすんな……えっと、すもあ?さんだっけ?」 「はいっす!」  数秒ほど、りあむは言葉を探すような顔をしていたが、結局思った通りを言った。 「……よく『じゃぱにーずすもー』とかってイジられる感じ?」  言われた言葉の衝撃にくわっと目を見開き、そのまま、くたりとしおれるすもあだった。 「お察しが良すぎて、ガチ泣きしそうですなう……」  割とかわいい響きではあるが、子供の頃は、良くからかわれたのもあり、あまりうれしくない名前でもある。  「……すまんかった。……それでさ、もあは思わなかったの?」 「いきなりあだ名とか、距離感近くない?!血は争えんな?!!……じゃなくて、ええと???」 「オレとにーさまの関係。おかしいとは思わなかった???」 「え?ああ、お顔って言うか……系統が違いますもんね??」  どちらかというと、日本人顔の兄:映瑠(えいる)と、もろハーフっぽい顔つきのりあむである。  似ているかというとあまり似ていない気もするし、半面、こういう内面には近いところが多いのかもしれない。 「……いや、うん…そこもだけど……まぁいいや……」 「オレからサクタローのこと、聴いたりしないの?アイツの秘密とかさぁ」 「ほえ???」 「例えばさ――」  続く言葉をすもあは遮った。 「あ。そーゆーのは考えてないかな」 「ん?」 「たぬちゃんさん本人が自分の意思で言うのならともかく、他の人から聴き出すのはなんか違うと思うの。ファンとしてそれはルール違反じゃないかな」  りあむの目が一瞬、意志を持ってきらりと光った。 「…情報とかデータとか欲しくないんか?」 「そりゃ知りたいし、欲しいけど。」  言葉を選ぶようにして、すもあは言った。  「……それがもし、誰かの…他ならぬたぬちゃんさんの過去の傷に触れるものだとしたら、あたしは要らない。」 「誰だって、心に傷を隠し持ってる。それでもちゃんと笑って泣いて生きてる」 「そして……その傷に触れてほしくない人の方がきっと多いと思う。だから、あたしはその人が望まない限り、……自分から見せる姿勢と意思が分かってからじゃないと、……」 「……そう思ってて」 「ふぅん。そっか」  りあむの返事はそっけないものだったが、どこか優しい響きをしていた。 「はい」  そしてさらにりあむは畳みかける。 「じゃあ、なんでオレは呼び出されたんよ?」 「え?ああ。」  すもあは、それこそ何でもない風に答えた。 「確か他の国へ帰国するって、聴いた気がしたので」 「こちら……日本らしいお土産になります、どうぞ」  なにやらたくさん抱えていた荷物のほとんどが自分に持たせるためのものだと知って。りあむの目玉がまん丸になった。 「……ほぼ、初対面だよな?オレたち」  困惑しているりあむに、すもあはどこか申し訳なさそうに言う。 「でも、せ、……っ、木崎さんの弟さんですし!それにたぬちゃんの大事な――」  りあむが今度は遮った。 「大丈夫、分かってる。……ただ、ちょっと……」  あまりにも、まっすぐすぎて。  彼は返す言葉を慎重に選ぶ。 「?えっと…」  もしかして困らせてる?と言いたげなすもあの瞳に、軽く目眩に似た感覚を感じながら、ようやくりあむは答えた。 「……まだ帰国しねーから。オレ」 「あら」  ぱちくりするすもあに、りあむは続ける。 「だから……しばらくは日本に居るよ。……」  そして呟くような小ささで更にぽつりと。 「……あんたも居るからな…」
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