0人が本棚に入れています
本棚に追加
———満月の日には、怪猫が現れる。
この街では、そんな伝説があった。
その夜、僕は雲隠れしている月に気が付かず外へ出てしまった。
中学二年生の僕は、食欲旺盛。どうしてもアイスが食べたくなり、家をこっそり出た。
街は人通りが少なく、音も静か。
一際眩しいと思い目を細めると、隠れていた満月が顔を覗かせていた。
「———やばい」
満月の夜に一人で外へ出るのは初めてだった。
お姉ちゃんが前に怪猫に会ったことがあるらしく、その時の話を聞いたことがある。
『怪猫に会った人は、人格が変わってしまう……』
昔は本気で怖がったけど、中二の今はそんなの嘘だって信じてる。
だけど、急かされるように家へ向かう足が早くなっていく。
夜風に当たりながらのんびりと……なんて考えていたアイスの入った袋がガサガサ音を立てる。
満月の夜の狼男になったみたいに、なるべく月が見えないコースで家へ急ぐ。
———ニャオ。
どこからか、猫の鳴き声が聞こえた気がした。
一瞬肩を震わせたが、僕は気づかない振りで歩き続ける。
———ニャーオ。
声が近付いている気がする。
早歩きだった足は気付けば走っていた。
……やばいやばいっ。なにかが追いかけてくる!
どこか広い通りに出ようと、道を変えたのがいけなかった。
右に曲がったら、そこは行き止まり。
僕は逃げられなくなって、その場で立ちすくんだ。
後ろを振り返ると、月の影になって長く伸びる体。
まさしく猫だった。
う、嘘だろ。僕、食べられたりする?
まだ今月のジャンプ読んでないし、明日の給食は揚げパンなのに……!
ニャーーオ。
また声がして、僕はへたり込む。
怖いけど、痛いのは嫌だから食べるなら一息に……!
と考えていたけれど。
恐る恐る目を開けたら、そこに写っていたのは予想外のものだった。
「……子猫?」
僕の目の前にいたのは、真っ白な毛並みにピンとたった耳がなんとも可愛い子猫だった。
子猫は僕の前にちょこちょこ歩いてきて、またニャーオと鳴く。
「……可愛い」
僕は子猫をぎゅっと抱きしめる。子猫はニャ?といった風に可愛く鳴いた。
家へ持って帰るものが増えてしまった。
アイスだけのつもりが、気付けば子猫も。
さっきまでは怖かった大きな月は、今では優しく僕らを照らしている。
お母さん、飼うこと許してくれるかなぁ。
子猫がニャ!と短く鳴く。
僕は子猫の体を優しく撫でて、そういえば前にお姉ちゃんが子猫を連れて帰ってきた時も満月の夜だったな、と思い出した。
最初のコメントを投稿しよう!