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皇家の呪い
夜伽を拒み、天籟皇子に手をあげた月鈴、そこへ男の声がする。命はないと思い、覚悟して目を瞑る。すると天籟は、
「捧日か、ちょうど話が盛り上がっていたところだ――下がってよいぞ」
「失礼いたしました」
「……」
酔っ払い皇子がかばってくれた……。緊張の糸が切れて月鈴はヘナヘナと座り込んだ。
***
後宮での女子の命は軽んじられている。問題を起こせばすぐ死罪。毒見役で命を落とす者も少なくない。最初のころは気を付けていたのに、後宮にきて早一年。月鈴はだんだん感覚が麻痺していた。
天籟は、侍女たちを呼びつけお茶の用意をさせる。
「……すっかり酔いが醒めてしまったな。オレも酔っていたとはいえ失礼な行為だった、反省している。貴女のしたことは水に流そう」
「反省なんて……わたしの方が悪いのに。本当にそれでいいのですか?」
「よい、許す。オレもどうかしていた」
(手をあげるなんて許されないというのに。権力をもった強い立場でありながら、なんて器の大きいお方なんでしょう……)
「そうだ、呪いのことを説明しよう。一応、他の奴に怪しまれないように、とりあえず君も寝台に座れ。なにもしないから安心しろ」
「はい……くしゅん」
再び寝台に乗り、天籟の横にちょこんと座った。しかし天籟は寝台から下り、月鈴に自分の羽織ものを持ってきて強引に持たせ、ボソッという。
「……目のやり場に困るし、寒そうだから着ろ」
「はい、ありがとうございます」
「何も聞かされずここに来たとはな、気の毒に……。
――ここ数年、帝の妃、異兄弟など、立て続けに亡くなっている。公にされていないが、病に伏した者もいるし、毒殺もある。そこで宮廷占師が卜占うらないをした。
それが『八百年前の呪いだ……』とね」
「八百年前――ですか? ずいぶん前ですね」
「ああ、月鈴は隠国の始祖、隠國王の末裔だろう」
「はい。ですが、隠国は八百年前に滅びました」
――昔々のそのむかし、隠国と燿国があった。燿国は大陸で侵攻と略奪を繰り返して領地を広げ、大帝国を築きあげた。一方、島国の隠国は小国ながら平和で栄えていた。しかし海を挟んだ隣国同士、仲が悪かった。ある時、燿国の皇子と隠国の公主が恋に落ち、駆け落ち同然で隠国に渡り、夫婦となった。もともと仲の悪かった隣国、好機とばかりに隠国に攻め込み属国となった。その後、二人を引き離し、別々に結婚させられたが、二人はそれぞれ別の場所で自害した。
(え?)
「えーとぉ、その伝記はわたしも聞いた事ありますが、でもそれが原因で、最近、皇族が亡くなっていると本気で思っているのですか? 王朝あるある悲恋話だと思うのですが……。呪いって。それに隠国は滅びましたが、わたしたちが生き残り、隠ノ領の当主、隠ノ家として燿国に出稼ぎに入宮するくらいなので、呪いをかけてはいないと思います」
月鈴は胡乱な目で見る。
「あ、莫迦にしたな。オレだって本気で思っているわけじゃない。ただ、帝が気にして、どうしてもその呪いを解きたいって言い出した。『これは天意だ』とまあ、誰も逆らえなくて……。隠ノ家を調べ捜索したところ、君が後宮で働いているじゃないか」
「それで――どうして帝ではなく……」
「帝は五十を超えている。オレとは年も近いし、子を成せば呪いが解けるだろうと、慌てて君を呼んだんだ。八百年前の呪いだから、八は我が国にとって縁起がいい数字だ、八番目の皇子であるオレが選ばれたってわけだ」
(八という数字だけで?? わたしも皇子に同情するわ)
「殿下には、大変申し上げにくいのですが、わたしには既に心に決めていることがございます」
「なんだ。男がいるのか。後宮なら姦通罪だぞ」
「いえ違います。その……呪いではなく、亡くなった明確な理由が知りたいのであれば、お力になれるかもしれません。そのために宮女としてきたのですから」
「なに、本当か」
「もしも解決したら、わたしとのことは無かったことにしていただけませんか」
「……」
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