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隠ノ家、鷹使いの秘術
月鈴は動物のいる竜王殿にやってきた天籟たちに、蒼鷹の飛龍を紹介する。
「鷹使い……」
天籟は月鈴に尋ねる。
「たしか……宴のあとの余興で鷹狩りをするが、鷹使いとはその鷹の世話係なのか? 動物が嫌いで鷹狩りに参加したことないが……」
「はい。鷹使いになるには師匠に弟子入りして一人前になるまでに数年かかります。だから特別枠でわたしは入宮しました。主上にはすでに専属の鷹匠がおりますが、わたしはその他の皇族の鷹担当です」
「して、話とは?」
「隠国は消滅しましたが、隠ノ家一族で代々継承していることがあります。ひとつは鷹使い……もうひとつは――」
鷹を手に乗せたまま、月鈴は振り返った。
「――己の意識を動物に飛ばす秘術です」
「ほう――」
天籟は思わず扇子を広げた。
***
二千年以上も君臨し続ける燿国とは、侵攻と略奪、残虐非道、血塗られた歴史でもあった。他国も同じように燿国に攻め、戦乱の世だ。大陸を統べる国にまでになったのは、始皇帝の雲帝だ。彼は策略家で、地の利を生かし次々と侵略して、周辺諸国を手中に収めた。
小国である隠国もすぐに侵略の対象となったが、島国で海や山々にかこまれ、独自の文化を築いていたので攻め入る隙がなく、不気味な存在でもあった。だが八百年前に隠国の公主と燿国の皇子が駆け落ちした奪還の名目で燿国が侵略すると、隠国はあっさり降伏した。――八百年前の出来事である。
***
「よしよし、いい子だね」
「キィ」
月鈴は飛龍をほめ、鷹小屋に入れる。すると天籟の侍女たちがやってきて、庭のド真ん中にある四阿に煮出したお茶を入れ、綿あめのようなふわふわの甘いお菓子も用意すると、
「龍の髭飴でございます。胡桃ときな粉の二種類をご用意しました。かけてお召し上がりください」
皇子付き侍女であり、若く美しい侍女長の詩夏は、潤んだ瞳で天籟を見つめた。詩夏に気づかれないように後ろに控えた侍女たちも天籟に熱い視線を送る。
「しばらく、誰も寄せ付けるな」
「かしこまりました」
そっけない天籟の言葉に詩夏は残念そうにすぐ下がった。
(やれやれ。この美しい天籟皇子に侍女たちは夢中なのか……。見初められたら侍女から大出世だもんね。頂に近いお方だから上手くいけば一族は安泰って理由かも)
「月鈴、話の前に、まずはお茶をいただこうか」
「ありがとうございます」
(わあ、こんなお菓子、見たことない。繭玉みたい。すごーい。おしゃれ~)
月鈴は天籟の横に座り、もの珍しそうにきな粉をかけ、ふわふわっとした甘いお菓子を口いっぱい頬張ると天籟がふ、と笑った。
「なんですか?」
「いや、なんでもない。ゴホンッ――。ここなら、誰にも聞かれないぞ。話は捧日とオレだけだ。捧日は宦官で、代々仕える柳家の者だ、安心しろ。して秘術とは」
「はい。隠ノ家の血筋の者の特殊能力です。実は、燿国の情報は隠国に筒抜けでした。間誅活動をせずとも、動物に意識を飛ばし、動物を通じて、この目で視てきたからです。次々と国をわが物にする強引なやり方に隠国も憤りを感じていました。ですので、状況を知った上で隠国は燿国と距離を置いたのだと思います」
「しかし、そんな異能がありながら、なにゆえ抵抗もせず我が国の属国となったのだ」
「それは――最善策をとったのだと思います。どう考えても戦慣れしていない民が国のために無駄な血を流す必要はないでしょう。わたしの先祖は民を守るため降伏しました。その後も血生臭い時代もあったでしょうが、不思議と隠ノ領まで攻め込む国もなかったし、今は平和ですから」
「そうか……。長年ひた隠してきた秘術をどうして燿国に力を貸してくれる気になったのだ?」
「今だからです。隠ノ領に鷹使いは多数おりますが、秘術ができるのはわたしと、あとは隠領に住む年老いた師匠だけです。
燿国が世継ぎや皇族が次々と亡くなる。呪いではなく、骨肉の争いでしょう。そうやって内輪もめしているうちに国が傾くと考えたからです。戦わなくなった平和な今、力をつけてきた隣国の波国が燿国の様子をうかがっているのをご存じでしたか?」
「なに……⁉」
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