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第30話 横断歩道
大河の家の車で駅前まで送ってもらった。
車から降りて、ようやく一息つく。
「一生分の気を使った気がする。」
「来年もよろしく。」
「嫌っ。」
「えー、一年で破局したことになるじゃん。」
「いいんじゃない?もう知らない。あれ?大河まで何で車から降りたの?」
「可愛い格好の璃世とデートしようと思って。だって、今日はオレの彼女じゃん?」
「今日はね。」
横断歩道の信号が青になるのを待ちながら、そんな会話をしていた。
信号が変わって、歩き始めた時、何でもないことのように大河が言った。
「なぁ、このまま彼女でいいんじゃね?」
「へ?」
「何その間抜けな返事。」
「だってまたそうやってからかうから。」
「本気にすればいいのに。」
その一言に気をとられて、前から来た人とぶつかってしまった。
「何やってんの?全部冗談だよ。笑うとこだろ?」
「ああ、だよね、ごめん。」
「やっぱ璃世は面白い。」
「褒め言葉だね、ありがとう。」
長い横断歩道を渡り切ったところで、大河が立ち止まった。
「…悪い。誘っといてごめんだけど、用事思い出した。」
「あ、うん。」
「ホントごめん、また明日!今日助かったよ!」
大河は、今渡ったばかりの横断歩道を、信号が点滅する中走って行ってしまった。
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