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第29話 いつもと同じ
「あれがじーさんだから。」
人が集まっている中心に、車椅子に乗った老人がいた。
「じーさん、誕生日おめでとう。じゃあ、オレ帰るわ。」
「ふっ。そちらのお嬢さんの紹介もせずにか?」
「今付き合ってる彼女。」
「お誕生日と伺いました。おめでとうございます。」
わたしはそれだけ言って、頭を下げた。
「まぁ良い。好きにしなさい。」
「じゃあな!」
それだけ言うと、大河は早々に老人を後にした。
「お疲れ。」
「毎年これって、大変だね…」
「だろ?でも今日は璃世のおかげですっごい早く終われた。さっさと帰ろう。」
そう言って、帰り始めた時
「周防、久しぶり!」
と声をかけられた。
「なんだ、お前来てたのか。」
「たまたま留学先から帰国してたから連れてこられた。」
仲良さそうに話を始めたので、少し離れたところで待っていると、知らない女の子に話しかけられた。
「ねぇ、あなた、本当に周防くんの彼女?」
話しかけてきた子とは別に2人の女の子がそばにいる。
3人がかりかぁ…
「そうですけど、何でしょうか?」
「周防くんはSUO食品の跡取りなのわかってる?どこの誰だかわかんないけど、自分が相応しいとか思ってるの?」
うわっ…
これ璃亜のドラマみたいなセリフ…
「言われてることよくわかんないです。」
「あんたバカなの?」
初対面で「バカ」とか普通言う?
「大河の方がわたしのことを好きなのに。相応しくないとか言われても、そんなの彼に言ってくれませんか?」
「何それ…」
そばにいる子が小さな声で話している。
「ねぇ、あのワンピ、Marieの一点物のやつ。」
「嘘?」
「絶対そう。新作発表会の時見たもん。Marieが自分の気に入った子にしか着せないって言ってたから覚えてる。」
「よく見たら…この子RIAに似てない?」
「似てるだけでしょ。こんなとこいるわけない。」
「何話してんの?」
振り向くと大河がわたしの後ろに立っていた。
「周防くん…ちょっと世間話してただけです。」
さっきまで強気だった女の子が急におとなしくなる。
「本当に、オレばっかお前のこと好きで嫌んなる。」
大河はそう言うと、後ろから抱きしめてきた。
一瞬、頬に…
今…キスした?
わたしを「バカ」と言った子は何か言いたそうにしたけれど、友達を連れて行ってしまった。
「大河?」
「オレの方がお前のこと好きって設定、何だよそれ?」
「いいじゃん、そのくらい。」
「璃世って面白い。オレの機嫌をとってこないのはお前だけだわ。」
「それって褒めてる?」
「褒めてる。褒めてる。」
大河は楽しそうに笑った。
いつもと変わらない。
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