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プロローグ 2022年 宮城県
2022年2月24日(土)
静かな山だった
草木が生い茂り、鳥が囀る
川の流れる音色は人間の奥底に眠るストレスや邪念さえ綺麗に洗い流してくれそうなほど、美しい
この山は都会とはかけ離れた存在だった…
…だが…今日は違った
13人の屈強な男たちが草木を掻き分け、山を進む 彼らは黒一色のライオットアーマーとバイザーに身を包み、右肩には旭日章が入った紋章が、そして両腕には小型のサブマシンガンが見える
彼らは「宮城県警捜査9課強行班」と呼ばれる、いわば「武装警察」である
もちろん、森の中に赴いたのも警察の仕事だ
彼らは森を歩く足を一度止めた 目的の場所に到着したからだ
彼らは山奥の中にポツンと存在しているボロボロの小屋の前で立ち止まった。古屋は錆びてボロボロになったトタン製の壁、割れたガラス窓、所々に木材で補強された跡があるなど、到底「人が住める場所」ではない
先頭の男が後ろをついてきている12人の武装警察の方をチラッと見たのち、止めた足を再度動かして、古屋の扉の前へと向かう
先頭の男が古屋の木製の扉を片手でゆっくりと開けようとする。しかし何十年と手をつけられなかった木扉は軋む音を立てながら、必死に抵抗する
そこで男は静かに開けることを諦め、グイッと勢いよく押し込み、強引に扉を開ける
扉が開くとほぼ同時に武装警官達は、即座に手持ちのサブマシンガンを構え、警戒しながらゆっくりと扉の先へと進んでいく
室内はボロボロで、そこら中に蔦が生い茂っている。この広めの部屋にはこれといった家具などはなく、代わりに高さ3メートルほどの円形の機械が壁に立てかけられていた。その機械は近くの木製の机の上に置かれた別の機材と黒色の太いコードで接続されている
さらに奥の方に木製の「部屋の扉」がある。何の部屋かは不明だが倉庫か何かだろうと想像する
武装警官達がアイコンタクトを取りながら先に進む。建物の中には武装警官を除けば人どころか動物1匹もおらず、静寂に包まれていたため、かえって武装警官達が細心の注意を払っているはずの足音がよく響き渡っていた…
だが…静寂も束の間だった
ガコンッッ!
明らかに自然のものとは思えない、重量感のある轟音が響き渡る
その轟音は武装警官が入ってきた扉とは違う、小部屋の扉の奥から聞こえてきた。音が聞こえたと同時に武装警官達は驚き肩をひくつかせながらその場で立ち止まり、音の鳴った扉の方を見る
一体あの先に何がいるのかも、何の音だったのか見当もつかない。だからこそ大層な武器を持ってしても、恐怖せざるを得なかった
しかし、調査に来た以上、何もしない訳にはいかない
先頭の男は銃を構え、音の発信源である扉の方に3メートル…2メートルと一歩一歩、慎重に距離を詰めていく。それに続いて、他の武装警官も動き始める
やがて扉の目の前にまで来ると男は足を止め、そっと手を伸ばしてドアノブに翳しつつ、聞き耳を立てて中の音を聞く。中からは微かに「人の吐息」のようなものが聞こえてくる気がした
隊に緊張が走る中、男は扉をゆっくりと開けた
扉の先は、ただの部屋だった
その部屋は広さ6畳弱の狭めの部屋で金属フレームのベッド、木製の棚、天井には電球がある。壁には窓があり、黄色に変色したカーテンが掛けられている。ボロボロで蔦が生い茂っていることを除けば普通の部屋だった…
そう…それだけならば…
男達はその姿を見た時、驚愕のあまり数歩、後退りした
その部屋のベッドの上に…「白衣の女」が座り込みながらこちらをキョトンとした目で見ていたのだ
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