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#1 私の名前は北上瑞樹
「へ?」
それが彼女の第一声だった。彼女は背中をさすりながら武器を持った男達を見る
整った黒髪、深紫色の眼、紺色の無地の和服の上から羽織った白衣、そして何もわかってなさそうな無知の表情
どこから現れたのかも知り得ないそんな女性を前にして宮城県警のエリート、武装警官達は驚き隠せなかった
そのせいで隊と女性の間ではしばらくの間沈黙の時間が流れた
「……貴様…何をしにここに侵入した?」
やがて沈黙を破るかの如く武装警官隊の指揮官であり、扉を開けた張本人「伏見井尚」はバイザーを上げ、顔が見える状態で女性に問いかける。彼はの目は鋭い紅眼で左眼は眼帯で覆われている
伏見は普段は冷静かつ大胆で、頼り甲斐のある指揮官だが、今回ばかりは緊張と驚きで小さい声しか出なかった
だが…その小さな声をあたかも掻き消してしまうかのように…
「お…お前ら誰だぁぁぁぁ!!!」
その女性はベッドの上で座ったまま男を指差し叫んだ。
お前こそ誰だよ。と言いたい気持ちは抑えて冷静に
「我々は宮城県警捜査9課強行B班だ。私はB班隊長伏見井尚だ」
しっかり相手の目を見て答えたのち
「貴様こそ一体何者だ?」
とりあえず今1番気になる質問を投げかける
すると女性はこう答えた
「っ…私の名前は瑞樹。北上瑞樹よ」
「何が目的でここに来た?」
続け様に質問をする
「来た理由…?えっと……この実験棟で実験してたんだけど…気づいたらベッドで背中強打して……あれぇ?なんでここにいるんだ…?」
北上瑞樹と名乗る女は首を傾げ、困惑した表情を見せた。しかし伏見はそれに対して呆れた表情を見せて
「実験?ふざけているのか?」
「ふ…ふざけてないよ!ホントだよ!」
すかさず瑞樹は反論する。だがこんなボロボロだし蔦まみれだしの場所で実験なんて普通はあり得ない。もっとマシな場所ですべきだ。と、伏見は疑問に思ったので
「こんなオンボロ屋敷で何の実験をしていたと言いたいんだ」
すかさずそのことを問い糺してみると
「お…おんぼろ屋敷??ここは最先端の研究所なはず……」
瑞樹はピンと来てなさそうな顔を見せ、一度周りを見てみると
「あれ…何でこんなに蔦が…?あれぇ?」
ますます彼女は困惑する。伏見もますます呆れた表情を露わにする
「貴様何かおかしいぞ…さっきから理解できないことばかり……
しかし言いかけた途端
「ああああああああああっ!おっ!思い出した!!」
瑞樹は伏見の会話を遮って叫び出し、バッと立ち上がり、扉の先を指差して
「私!アレに先生と一緒に吸い込まれて!」
男達は大声に驚いて反射的に瑞樹が指を刺している方向を見る。そこには壁に立てかけられた金属製の「円形型機械」があった
しかし、その機械は錆びて変色しており、一部が崩れ落ちている。機械というよりも鉄屑と称した方が良い気がするほどだ
伏見は呆れを通り越して恐怖を感じてきた。この女には自分たちには見えない「何か」が見えてしまっているのではないか?という恐怖心だ
伏見は恐る恐る言葉を紡ぐ
「…本当に理解できない。何か…我々と貴様とでは何か食い違いがあるんじゃないか?」
すると瑞樹は少し腑に落ちたような表情を浮かべ
「食い違い……確かに何かおかしいわ…」
「可笑しいのは貴様だが」
「はー!?突然研究室に押し付けてきた軍人に言われたくないし!それに!私だって被害者だし!」
「軍人ではない。武装警察だ」
伏見は「軍人」という言葉に顔を顰めると同時に、その言い回しに違和感を覚える
「嘘つけ!そんな強そうな武器持ってるのは軍人だけでしょ!」
瑞樹は再度人差し指で伏見を指して問い糺し
「つか!軍人なら人様の研究の邪魔なんかしてないで近々の戦争準備でもしておけ!」
武装警察だと説明しているのにも関わらず、一貫して軍人扱いしてくるこの女に伏見は苛立ちを覚え軽く睨みつける。が、その苛立ちは疑問へと変わる
引っかかったのだ。「近々の戦争準備」という文言に
「……戦争…だって?」
「うん。近々起こるかもーってラジオで聞いた程度だけど」
もちろん、日本がどこかと戦争しようなんてことはあり得ない
しかし、伏見は2人の間にある食い違いに気づいたが、あまりにも現実離れしている。だから質問をする声は僅かに震えていた
「…野暮なことを聞く。今は西暦何年だ?」
瑞樹はその問いに対して紛れもなくこう答えた
「1940年だったはずだけど?」
その瞬間、伏見の推察した食い違いが正しい可能性が高まった。
いや、確定した
「…現実離れしていると思うかもしれないが…端的に言う」
伏見は余命わずかの患者に容体を伝える医師のような深刻そうな表情で告げた
「貴様は……」
この女…北上瑞樹という女は…
「未来にタイムスリップして来た」
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