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チェレはその美しい目元に濃いクマを作ったまま、赤ん坊を背負って夜の都会を徘徊していた。
見るからに気力を失っている表情は生気を感じさせず、ときおり車道を走り抜けていく車のライトにも動じることなく、無心で縦揺れを繰り返しながら歩いているように見える。
その顔色も、病的なまでに白かった。
「今日も見回りの警察さんに声かけられちゃったねぇ。こんな時間に赤ちゃん連れなんて危ないよなんて言われたけど、そう思うなら代わってくれればいいのに」
肺の奥から吐き出したため息と共に、無理とわかっていて小さく愚痴る。
しかし背負った赤ん坊が空に手を伸ばしているらしい気配を察すると、わずかに目を細めて背後を見た。
「モルちゃん、お空見てるのかなー? ママそろそろお家帰りたいんだけど、まだねんねしてくれないの?」
問いかけには当然ながら返事がなく、代わりにバタバタと小さい手足が動く感覚だけが背中に伝わる。それを肩を落として受け入れ、とにかく自宅に向かうためにと踵を返そうとしたときだった。
不意に、ヒステリックな女性の泣き声が聞こえた。
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