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その日は、それで話が終わった。不審者が出てちょっと気持ち悪かったと、家族にそう愚痴りはしたが。
問題はその翌日。なんと、彼女は再び僕の前に姿を現したのである。正門の前に立っていて、再び同じことを尋ねてきたのだ。
「真壁世一くん、という子をご存知ありませんか」
僕はその日も知らないと答えた。ところが。
「真壁世一くん、という子をご存知ありませんか」
その翌日も。
「真壁世一くん、という子をご存知ありませんか」
その翌々日も。
「真壁世一くん、という子をご存知ありませんか」
その翌々々日も。
女性は僕の前に現れて尋ねてきたのである。それが一週間も続けば、流石に僕も気持ち悪いと感じてくる。一体彼女は誰なんだろう。何故、世一のことを僕に尋ねてくるのだろう。彼ともっと親しい友人なんて、いくらでもいるというのに。
そろそろ先生にもちゃんと話した方がいいかと思い始めていた、その矢先位のことだ。
半月ほど続いたところで、彼女は急に姿を消した。突然諦めたのだろうか。あるいは、目的を達成したのだろうか。いなくなればいなくなったで、それはそれとして気になるのも人間である。僕は彼女に会わなくなった朝、教室で親友の祐樹と拓哉にその話をしたのだった。すると。
「マジ?シーもその女に会ってたの?」
ちなみにシー、というのは僕のあだ名。苗字が志岐だからだが。
「オレも実は、学校に来るたび声かけられてて、きもいなーって思ってた」
「おれもおれもー」
「え、二人とも?ほんとに?」
「ほんまやで。サダコでも出たのかと思ったわ。まあ、朝っぱらから、堂々と学校の前にサダコが立ってるってのもなかなかシュールやけどな。で、あんまりしつこいから、つい昨日答えてもうたんや、おれ。知ってますって」
「ええ!?」
まさか、拓哉があの女にイエスを返していたとは。それは祐樹も知らなかったようで、“言っちゃったのかよ”と目をまんまるにしている。
「だって言わないと、えんえんと質問されそうで嫌やったんや。そしたらあの女、なんかこう、唇をきゅーっとしてな。気持ち悪い笑い声を出して、こう訊いてきたんや。“彼はどこに住んでいますか”って。クラスを尋ねるわけでもなく、家を訊いてくるのってちょっときもいやろ。でも、どっちみちおれ、世一とそんな仲良いわけでもないし家の住所なんか知らん。三丁目のへんに住んでるってことしか知らんって正直に言うたわ」
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