6人が本棚に入れています
本棚に追加
「それも言わない方が良かったと思うけど……そしたらどうなったんだよ」
「ありがとうございます、って言われて、三丁目の方に歩いていった。それで仕舞いや」
「……」
僕は、祐樹と顔を見合わせる。なんだろう。何か恐ろしいことが起きたわけでもない。しかし妙に胸騒ぎがするのは何故なのか。最近は、男の子でも安全とは言えない世の中なのだ。男の子だってストーカーされるし、変質者に遭う。彼女がそうではないなんて、どうして言い切れるだろう?
だが、その日世一少年は普通に学校に来た。特に異変があった様子もなく、普段通りに。そしていつも通りにトイレでヒーローゴッコをして、床をびしょぬれにして先生に叱られていた。ゆえに僕も、杞憂だったと思って胸をなでおろしていたのだが。
事件は、その日の夕方に起きることになるのである。事件発覚を知るのは、翌朝のホームルームで先生が話してからのことだったが。
「今日は残念な御知らせをしなければいけません。真壁世一くんが昨日の夕方……家の前の川で溺れて死んでいるのが発見されました。近くで、長い灰色の髪に、茶色のコートの女性の姿を見かけたという情報があり、警察が行方を追っています。皆さんも注意してください」
事件の真相は、分からない。
だがその日僕はトイレに行ってふと、用具倉庫にいつものモップがないことに気付いてしまうことになる。世一少年が友人達と玩具にしていたあのモップが。
よく思い出してみると、モップのT字部分にはもさもさとした大量の灰色の糸のようなものがあって、あれは逆さにすれば髪の毛に見えるかもしれない。柄はくすんだ茶色で、あのモップはちゃんと手入れがされていなかったせいでいつも濡れていて水が腐ったような臭いがしていた。
そして、世一がいつもいつもふざけて殴ったり蹴ったり、乱暴に扱っていた主犯であったのは事実なわけで。
――ま、まさかね……?
粗末に扱われた道具は、化けて出ることがあるらしい。彼女がずっと、復讐のために彼の家の場所を尋ね歩いていたとしたならば?
昔おじいちゃんから聞いた話を思い出し、僕はぶるりと身震いしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!