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あなたを招待致します
僕は、釈然としないまま、寝転がっていた。
ー余計な事には、関わるなー
僕の中で、誰かが、叫んでいた。
ーこのまま、静かに暮らせばいいだろうー
確かにそうだ。わざわざ、危ない橋を渡る事はない。僕は、自分の部屋で、ベッドに寝転びながら、漫画を読み始めていた。
「そんな事をしている暇があったら、外いけ」
ばあちゃんが、部屋を覗きにきていた。時折、歩き回ったり、寝込んだり、神降しとも言われ、ばあちゃんの状態は、よく変わる。突然、僕の部屋に現れ、意味不明な事を言う事は、よくあった。あの噂の高校生が来てから、ばあちゃんは、不穏になっていた。
「この家に生まれたお勤めじゃ」
「何言うの。仕事は、ちゃんとやってるでしょ」
「仕事?浮世の仕事では、あらせん。お役目じゃ」
ばあちゃんに言われるのは、常だったから、気にしない事にした。
「本当。困った奴じゃ。こんな子が産まれてくるとは、思わんかった」
産まれてきたのが、僕みたいな子で、残念と言われるが、幼い頃から、よくある事だったので、僕は、あまり気にしない。
「あのこ、かわいそうね」
何度、そう言われたか、わからない。いつも、そう。可哀想と言われるのが、当たり前になっていた。僕の持つ雰囲気が、人を遠ざける。僕は、いつしか、一人遊びを覚え、皆から離れて、教室や公園の隅で、一人で、遊ぶ事が常になっていた
「一緒に、行こうよ」
僕の前には、白装束に身を包んだ高齢の男性が現れる様になっていた。
「行かない。僕は、どこにも行かない」
「今は、そうでも、自分から来る様になるよ」
「そんな事ない」
「君は、まだ、知らないだけ。いつか、君の心が食べられてしまう」
「やだー!!」
今、思い出しても、ゾッとする。幼い頃のトラウマが、ホラー嫌いになった。書物を楽しみながら、自分だけの空間に閉じこもって生きる。それが、穏やかで、心地よい。
「だから・・・いつまで、尻込みしているんだい」
突然、目の前に逆さ吊りで、現れたのは、あの颯太が連れていた音羽だった。
「うわぁ!お前は、あの時の?」
「おや・・・覚えてた?」
「も・・・もちろん」
あまりにもはっきり見えるから、現実かと思ったが、宙に半身だけ、逆さ釣りで、現れる事は、非現実的だ。
「人は、それぞれ居場所があるって、聞いたけど、お主の居場所は、こんな狭い部屋なのか」
「そうだ。僕の居場所は、ここだ」
「わかってないぁ」
音羽は、耳まで避けた口を開く。
「今のうちに謝っておくよ。あなたの為を思ってだから」
音羽の髪が、中に広がる。
「招待するよ。さぁ、行っといて」
降りかかる音羽の長い髪に、晴は、呑まれていった。
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