闇の道が開く時

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闇の道が開く時

颯太は、ずっとそのカメラを見上げていた。なんの変哲もないカメラがそこにあり、夜の景色を映し出していた。 「そこに、いたら返事して」 颯太は、カメラに向かって話しかけた。 「ここで、何が起きたのか、見ていたよね」 カメラは、じっと、颯太の姿を映し出しているだけである。不幸な事故のあった踏切に颯太が行く訳でなく、気にしていたのは、角にあるカメラだけだった。 「何もしないよ。逃げていかないで」 颯太は、カメラの下に行った。カメラは、しばらく颯太の姿を映し出していたが、じじっとショートする音を上げると、黒くなり、レンズが飛び散っていった。 「また、そんな悪戯をして」 颯太は、そう言うと今度は、反対側にある街頭の下に行った。 「逃げまわるなよ。怖いの?」 颯太は、そう言うと、口元に指を当てた。 「姿を現してくれないなら、こちらから、行くよ」 踏切の辺りの明かりは、カメラと少しの街灯だけだった。レンズの割れたカメラは、その後、光を失ったが、残された街灯は、颯太の口笛に少し、震えているように見えた。光が、音に合わせて震え、瞬きするように点滅する。 「悪戯するなら消すよ」 「・・・め・・・」 「え?聞こえない」 「や・・・め」 「姿を見せて!」 「やめろ!」 一瞬、街灯の光が、横に走った。金属音が響き、ガラスが横に飛び散った。 「・・・ち!」 颯太は、舌打ちした。周りの光源が、全て失われたからだ。飛び散った破片が、颯太の頬を掠めた。 「抵抗するか?」 「お前に、できるか」 「やっぱり・・・思った通りか」 暗闇となった空間に、闇よりも濃い、闇の塊が浮いていた。 「迷わせる噂を流したのは、お前か?」 闇は、ふわふわと定まらず、弧を描きながら移動している。 「子供の霊がいるなんて、事実とは、違うだろう?」 颯太は、踏切の辺りを見回しても、噂通りの霊がいない事を知っていた。母親が、心配する子供の霊は、噂に過ぎず、全く、気配すらない。その代わり、そこにいたのは、子供の例よりも面倒な存在だった。 「だから、音羽が止めたのか」 厄介な者。それは、颯太を取り込もうと移動を始めていた。
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