お化け屋敷でアルバイト

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    「うちは本物志向のお化け屋敷だから、怖がりの女の子には難しいと思うけど……。その点は大丈夫かな?」  目の前に座る男が、そう尋ねてくる。小太りという言葉がピッタリの体型で、髪の毛は側頭部にしか残っていない中年男だ。  小さな運営会社らしく、社長が自らアルバイトの面接を担当していた。それは良いとしても、まず「女の子は怖がり」と決めつけられるのは腹が立つ。さらに、提出した履歴書がきちんと読まれていないとわかり、ガッカリだった。  この会社、本当に大丈夫なのだろうか?  そんな内心はバッチリ隠して、愛想笑いを浮かべながら私は答える。 「はい、もちろんです。履歴書の備考欄にも記したように、以前にもお化け屋敷でアルバイトした経験があります」  同じアルバイトでも、しょせん学生時代は片手間だった。しかしフリーターとして暮らす現在では、バイトこそが本業だ。きちんとした会社に、なるべく長く雇ってもらわないと困るわけで……。 「そうか、君は経験者なのか。何をやっていた?」 「はい、脅かし役の一人として……」  これは嘘だ。以前のところでは、お化けの(たぐ)いは作り物ばかりだったし、私は完全に裏方だった。  しかし、この会社は違うらしい。求人情報には「経験者優遇」「特に吸血鬼を募集」と書かれていたのだから。  なぜ「特に吸血鬼」なのか、その点は不明だが、小さい頃の渾名が吸血鬼だった私にはピッタリだろう。 「……吸血鬼をやらせていただきました」  芸能人のプロフィール写真のように、わざとらしく少し口を開けて笑う。まるで吸血鬼の牙みたいな、嫌になるほど鋭い八重歯を、ハッキリと見せつけながら。 「おお! 君みたいな人材を求めていたのだよ!」  想定していた以上に喜ばれて……。  こうして私は、社長曰く『本物志向のお化け屋敷』で、吸血鬼として働くことが決まった。    
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