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ep.1
僕と舞香はマッチングアプリで知り合った。夏にかけて暇があるのが職業柄故に、心の拠り所を探すには丁度良い時間があった。
でも僕自身はこの手のアプリの事を信用してない。それは僕ら男性は「選ばれる側」の人間だから。写真やプロフィールを見て自分の心がくすぐられる人には好意の意思表示をするが、それが相手も同じだとは限らない。お互いに同じ意思表示が無いと、このアプリはメッセージを送り合うことはできない。そして、男性からの意思表示は、女性の心持ち次第であり、中々メッセージを送り合うまでの関係には至ることは少ない。
3交替制のお仕事の舞香からは明け方の4時頃、初めてのメッセージが届いた。まさかマッチングするとは思っておらず、そしてこんな明朝にメッセージが来るとも露知らず、メッセージが来た時の通知で目が覚めた。だから未だに印象に残ってる。そんな時間に、普通はメッセージ送らないと思うから。
そこから話は意外なほどテンポよく進む。実は車で10分くらいの近所に住んでいること。海によく遊びに行くから肌が小麦色なこと。指の関節が異常に柔らかいこと。
心地よい。小気味よい。彼女との会話は本当に。次第に心惹かれる。でも、悪くは無い。
だが10分おきに返信をくれていたと思ったら、突如1日1通の返信になることもあった。彼女の仕事柄、返信時間もバラバラであるが故に、いつ返信がくるのかドキマギさせてくれる。子猫のように掴みどころがない。でも、悪くは無い。
そんな彼女と初めて会ったのは、夏が本番に向けてアップを始めた頃であった。
「今海に来てるよ。7月の終わりだからまあまあ暑い。」
「え、いいなあ。私も行きたい。」
「来る?」「行かない。」
けど1人でドライブは行く、と舞香は言う。その1時間後に舞香から電話が入った。
「海から帰った?」
「帰ったよ。まあまあ焼けた。多分舞ちゃんに勝てる。」
「ふふん。私の小麦色加減知らないでしょ。多分引くと思うよ。」
「もうドライブ出発したん?」
うん、という声と車が走る音が聞こえる。気まぐれちゃんは今日はドライブ通話の気分らしい。シャワー終わりの僕はタオルドライをしながら通話を続ける。
「どうやったん?前に会った人は。」
「んー。まあ友達って感じ。何も無いかも。」
「でも一緒に飲んだんでしょ?その後何かあっても良さそうなもんだけど。」
「確かに少しばかり、アルカホー入ってボディタッチに寛容になる気持ちは分かるけどね。でも私ね、そーゆーの嫌いなの。」
「まあ君くらいの年齢だとまだそんなにハマらないかもしれないけど。女性は年齢を重ねるごとに欲が高まっていくらしいし。」
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